2012年4月から後見制度支援信託の取扱いが開始されました。
後見制度支援信託とは、被後見人(後見制度の支援を受ける人)の財産のうち、日常に必要な金銭を後見人が管理し、その他の通常使用しない金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことです。
後見制度信託を利用すると、信託した財産を払い戻したり、信託契約を解約したりするには家庭裁判所の指示書が必要となります。つまり、後見人の権限で、自由に預貯金を払い戻したり解約したりすることができなくなります。
何故、このような制度が導入されるに至ったか、一言で言うならば成年後見人の不祥事を防ぐためです。
成年後見制度は、高齢者・障がい者など自ら財産を管理することができない人の支援をする制度として2000年に始まりその後、高齢化の進展や介護保険制度の導入などとあいまって制度が普及していき、増加を続けている状況です。
しかし、このような増加に伴い、制度や後見人の役割を理解しない人が後見人になってしまい、そのため横領などの不祥事が発生するようにもなってしまいました。中には数千万円から1億円を超える金額を着服するような例もあります。着服する人の多くは親族の後見人ですが、弁護士や司法書士などの専門家が着服するというような残念な例も実は過去にありました。そうして、成年後見制度が本来被後見人の財産を保護するための制度なのに全く逆の結果になってしまう事態に最高裁判所が頭を悩ませるようになったのです。
そこで考え出されたのが、多額の金銭については後見開始後に信託銀行との契約を締結させ、裁判所の指示書なくしては動かせないようにするということだったのです。
確かに、信託銀行に預けてしまえば、特別な事情でもない限りは解約したり、払い戻したりすることが事実上できにくくなります。裁判所に一々指示書を出してもらわなければならないとすれば、横領事例も多少は減少するでしょう。
しかし、横領行為はあえて信託銀行と契約しなければ防げないものなのか慎重に考える必要もあります。選任時の問題、その後の不十分な監督も横領行為の発生に影響していたことを直視するべきです。弁護士や司法書士でも横領する例があると述べましたがそれは極めて例外的なものであり、圧倒的に多くの士業の方は誠実に財産管理を行っています。親族以外の専門家後見を多くし、また後見監督人をつけることでの解消をまずは試みるべきだと思います。
また信託銀行の利用を事実上強いることで、被後見人の自己決定の尊重に反する可能性もあります。被後見人の中には、自らの資産内容についてある程度把握をし、その管理方法について意思を示す方も少なくありません。
それにも関わらず、本人の意思に反して、資産の多くを信託銀行に一方的に預けてしまってよいのでしょうか。例えば、被後見人は、長年世話になってきた地元の信用金庫や地方銀行に預金をし続けたいのに、後見人が就いたところでそれらが全て解約されてしまうのは、本人の資産管理の方法選択の自由を奪うものです。金融機関にとっても、長年の顧客を失うことになります。
また、後見人の役割は単に財産管理をするだけではありません。被後見人の生活が充実して豊かになるように配慮しながら、財産を用いることも時に必要なことです。例えば、被後見人の資力から不相当でなければ比較的高額な老人介護施設に入居するための契約を結ぶこともありますが、裁判所の指示書を必須とすることで事実上そういったことが抑制される可能性があります。
もちろん全ての後見事件で後見制度信託が利用されるわけではないので、常にこのような危惧があてはまるわけではありません(ご安心下さい)。但し、制度創設の当初だからこそ、その適用や運用は慎重に検討していくべきであると思います。
そして、何よりも信託銀行を利用しなくても「大丈夫だ」「安心だ」と制度を信頼してもらえるよう、ひとりひとりの後見人がきちんと職責を果たしていくことが一番大事なことです。
(亀井)
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