精神障害を有する被疑者の取調べが可視化されます。
最高検は23日、精神障害などで責任能力が問題となる事件でも取り調べの録音・録画(可視化)を導入すると発表した。11月1日から試行する。逮捕直後の身ぶりや口調を記録することで、犯行時の精神状態の立証や専門家の鑑定に役立てる。
来月から、精神障害が疑われる被疑者の取り調べは、録音録画がされることになりました。これまでは、裁判員裁判対象事件、特捜部事件、知的障害を有する被疑者の3類型に限って、録音録画をしてきましたが、その対象がさらに広がることになります。
精神障害を有する被疑者のばあいには、供述調書が任意に作成されたものかどうかの判断資料にするほか、精神鑑定の鑑定資料とすることも想定されているそうです。これまでは逮捕から裁判までに半年から1年程度を要することが多く、その期間中に投薬治療等を受けて症状が改善したり、逆に拘禁反応によって症状が悪化してしまうということがありました。逮捕直後の言動が記録され、鑑定資料となることで、より正確な鑑定が可能になると考えられます。
ただ、今回の拡大でも、録音録画されるのは、検察官が被疑者に精神障害があると疑った場合に限られています。実際には通院歴がなかったり、疎通性に問題がないために、精神障害が看過されてしまい、後に精神鑑定を実施してはじめて妄想等を抱いていたことが明らかになった例も少なくありません。
精神障害や知的障害を有する被疑者の場合には、とくに誘導される危険性が高く、後から記憶どおりに供述したのかどうかを検証することは非常に困難です。
今週、私が担当している事件の被告人質問がありましたが、弁護人から質問されると弁護人の望むように回答し、検察官から質問されると検察官の望むように回答するので、まったく逆の証言をしてしまうということありました。脅迫したり威圧しなくても、「こうじゃなかったの?」と聞くだけで、いとも簡単に「はい」といわされてしまうのです。私たちも、何が本当の記憶なのかを確認するのに非常に苦労しました。
検察官は少しずつ可視化の範囲を広げてはいますが、いまだに全面的な可視化には消極的です。しかし、裁判員裁判対象事件と特捜部事件に加えて、知的障害、精神障害まで拡大したのであれば、もはや一部に限定する必然性はないでしょう。知的障害や精神障害の発見が難しいことや、後から検証することが難しいことを考えれば、原則として全事件で録音録画を行うべきであると考えます。
(田岡)
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