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2012年10月 3日 (水)

パニック障害も「傷害」にあたると初判断

 9月28日,岡山地裁で,パニック障害が刑法上の「傷害」にあたるかどうかが争われた裁判員裁判の判決があり,「傷害」にあたるという初めての判断が示されました。この判決は,外傷後ストレス障害(PTSD)が傷害にあたると判断した今年7月24日の最高裁判所の判決と軌を一にするものであり,今後はその外延がどこまで広がるのかが問われることになりそうです。

 ところで,「障害」と「傷害」は同じ読み方ですが,その意味は異なります。なぜ「精神障害」が刑法上の「傷害」に当たるかが問題になるのでしょうか。それは「傷害」がつくかつかないかで,法律で定められている刑の重さが全く違って来るからです。

 たとえば,今回の事件の場合には,強制わいせつ罪であれば上限は懲役10年ですが,傷害がついて強制わいせつ致傷罪になれば上限は無期懲役になります。このような違いがあるために,検察官はこれまでは「傷害」に当たらないと考えられて来た「精神障害」を刑法上の「傷害」に当たると構成して,強制わいせつ致傷罪で起訴して来た,というわけです。

 ここでは法律上の解釈の当否には立ち入りませんが,もし,このような解釈が一般的になってくると,その外延がどこまで広がり得るかが非常にシビアな問題になり得ます。抑うつ状態や希死念慮(自殺念慮)などのうつ病エピソードが認められる場合であればどうか,更には,それが原因で被害者の方が自殺された場合に「致死罪」になり得るか,ということです。

 参考になるのが労働災害(労災)です。以前は精神障害は労災であるとは考えられて来ませんでしたが,過労死・過労自殺が社会問題化し,最高裁判所も電通事件において使用者の安全配慮義務違反を認めました。この事件を契機として,厚生労働省において業務上外の認定基準が策定され,現在では,過労死・過労自殺も労災として認められるようになっています。

 また,過労死・過労自殺の場合だけでなく,うつ病や適応障害等の精神疾患に罹患したような場合についても認定基準が今年改訂され、労災として認定されるようになって来ました。現在,東京地裁,東京高裁において使用者の安全配慮義務違反が認められた東芝事件が最高裁に係属しており,その判断が注目されています。

 このように労災実務では,うつ病や自殺も使用者の安全配慮義務違反と相当因果関係があると判断されており,賠償すべき損害の範囲に含められていますので,これと同様に考えれば,刑事事件でも抑うつ状態等を発症したり,その後に自殺した場合には,その責任を問うということがあり得ることになります。現在,そうなっていないのは,刑事事件では検察官が何罪で起訴するかの権限を握っており,被害者にはその権限がないからに過ぎません。

 ただ,このような起訴がなされる背景に法律が定める刑自体が低すぎるという感覚があるのだとすれば,法律が定める刑を引き上げることによって対応することが筋であると思われます。裁判員裁判では,身体的な被害よりも精神的な被害を重視する傾向があり,性犯罪の場合には,既遂と未遂とで量刑上の差がなくなってきるという分析もなされています。財産的な被害や身体的な被害を重視する法律の考え方自体が問われている,ということでしょう。

(田岡)

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