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2012年10月30日 (火)

原子力損害賠償~東電への直接請求とセンター申立て(ADR)の長短

原発被災者弁護団に加わり,ADRを進めて行くにつれ,東電の直接請求とADRでの対応の違いが目につくようになりました。

直接請求をしても認められないものが,時間と手間をかけてADRで判断してもらえば多く賠償金がもらえるようになる…これが,通常人が抱いているイメージだったと思います。ところが,現実はどうも違うように感じられるのです。

同じような請求をしても,直接請求をした人には認められたものが,ADR申立てをした人には認められない,あるいは詳細な証拠を求められた挙げ句にその証拠を減額の根拠とされたというような事案を頻繁に見かけます。

これは,東電の中で直接請求に対応する部署と,ADRに対応する部署が異なることによって起こる現象のようです。数が多い直接請求の部署では,細かな認否や証拠の精査をしていられないため,かなり適当な主張や立証でも支払を認める一方,ADRでは東電側が弁護士をつけて,極力賠償額を減らすために主張や証拠を精査して,立証の弱い部分をどんどん切り捨てているのです。

そして,センターの仲介委員にも,和解させようという意気込みが先行するあまり,東電が認めない部分については和解案に盛り込まない(賠償対象から外す,あるいは減額する)という消極的な姿勢があります。
結果,直接請求者の方が手間も時間もかけずに多くの賠償金がもらえるという事態が生じることがあるようなのです。

上記現象は,交通費の請求や,生命身体損害の請求で比較的多く見られると感じています。
直接請求した人には,交通費に制限をかけずに支払う一方で,ADR申立をした者には月に2回目以降の移動費を認めなかったりしています。

生命身体損害の請求も,直接請求した人には事故と損害の因果関係を細かく問わない一方で,ADR申立てをした者には東電側で因果関係を調べ,明らかに因果関係があるという診断が出なかった場合は一切支払わなかったりしています。

無論,直接請求では歯牙にもかけられなかった請求が,ADRで申立をすることによって認められた事案も多くあるので,直接請求の方がよいと言うつもりはありません。
しかし,まず直接請求を先行させ,後にADR申立てをすると,どうなるでしょうか。上述した,生命身体損害が例としてわかりやすいので,これを題材にして,以下シミュレーションします。

直接請求では,因果関係を深くは問われないので,診断書がそこをあまり明らかにしていなくても,東電は通院慰謝料と交通費を社内基準で支払ってくるでしょう。
ただし,社内基準なので,払ってもらえる通院慰謝料はかなり低めです。
そこで,次にADR申立をします。

診断書が,事故と損害の因果関係をはっきり認めていれば,直接請求を先行させなくても結論は同じですが,因果関係がはっきりしていなかった場合は違いが出そうです。
つまり,先行する直接請求で,東電は因果関係を認めたことになるので,今更それを撤回するのは信義則に反するとして,因果関係を争わずに金額のみを争うことができるのではないでしょうか。

直接請求とADRには一長一短がありますが,それが当初言われていたような,「時間と手間をかけて多くの賠償金をもらうか,時間と手間をかけずに最低限の賠償金をもらうか」という選択では必ずしもなくなっているという現状があります。

個人的な意見としては,先に直接請求を行い,足りない部分をADRで補完するというのがよいように思うのですが,これだと実は代理人がADRの申立てを請け負える事案は限られて来るように思われます。何故なら,なかなか認められず手間がかかる部分のみがADRに残り,かつ少額の請求になることが多くなるため,代理人はかけた労力に見合う報酬が得られないからです。

センターには,申立てには極力弁護士をつけて,主張を分かりやすいものにしてほしいという意向があるそうですが,上記のような流れができると,そうもいかなくなるでしょう。弁護士をつけられない被災者は,不十分な主張立証しかできず,得られる賠償金が下がってしまいます。

そうならないようにするために,①東電はADRにおいて,最低でも直接請求すれば支払われる金額を速やかに認め,支払うこと②センターは,東電が支払に難色を示すような場合でも,被災者に寄り添った和解案を提示し,東電を説得する勇気を見せること,以上2点を強く提言したいと思います。

(石丸)

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