犯罪被害者のための損害賠償命令
先日法テラスからある犯罪被害者の支援を求める電話がありました。相談の主は,傷害事件で半身不随になり,言語障害に陥った被害者の息子さんでした。とりあえず電話をして状況を尋ねると,加害者に損害賠償請求をしたいのだけれどどのようにしたら良いか分からない。検察官の説明は良く分からなかった。やり方がわからなかったら法テラスに行けと言われたので法テラスに相談して弁護士を紹介してもらったとのこと。また,この件は当然刑事事件になっており,話の様子から翌日は弁論終結予定だということがわかりました。
「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」は、故意に人を殺傷する事件やレイプなどの被害者又はそのご遺族は、刑事事件が係属する地方裁判所に対し、損害賠償命令の申立てをすることができると定めています。
刑事裁判と民事裁判は全く別のものですから,従来は,加害者に対して損害賠償を求めるためには別途損害賠償請求の民事訴訟を起こさなければなりませんでした。最近になって設けられたこの損害賠償命令の制度は,刑事裁判の手続きの延長で,損害賠償についても判断してもらえるという制度で,犯罪被害者にとっては利用価値の高い制度なのです。
しかしその申立は弁論終結前に行わなければなりません。相談者はそのような制度があることを知りません。この制度を説明した上で利用するかどうかの意思を確認して、利用するのであれば、翌日の公判の弁論終結前に申立をしなければなりません。この申立を利用することを前提に相談者をお呼びし、それまでに公判担当検察官とやり取りして公訴事実等を聞き取りました。
夜事務所を訪れた相談者は当然のことながら損害賠償命令の制度を利用したいとのことでした。相談者の資力から、弁護士費用の点でも犯罪被害者の援助制度が利用できることを伝え、委任状を頂き、申立書を作成しました。被害者の労働能力は100%失われていましたから、損害には逸失利益も含まれます。いろいろ検討すると数千万円の損害になりました。そうした作業を行って、その日のうちに申立書を作成、翌日の公判の前に無事裁判所に申立をすることができましたが、相談が1日遅れていたら、あるいは弁護士の側に迅速に対応する余裕がなかったらこの制度は使えませんでした。
検察官の説明が悪かったのだとは思いません。そもそも一般の人は民事裁判と刑事裁判の区別を知らない人がほとんどです。だから、普通に説明しても、素人の人にはわからないのでしょう。もちろんそれをそのままにしておいて良いわけではありません。犯罪被害者に法的支援をするのは弁護士の役目でもあります。検察官が犯罪被害者に対して弁護士に相談することを気軽に勧め、弁護士の側も責任を持って対応する体制を作ることが大切だと思いました。
(櫻井)
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