責任能力の難しさ
責任能力の研修で,全国各地を飛び回っています。すでに岐阜,茨城,栃木,香川の各弁護士会にお招きいただき,「責任能力を争う裁判員裁判の弁護活動」というテーマで講演をさせていただきました。今後は東京のほか,鹿児島,愛媛,愛知に伺う予定になっています。これまで,責任能力をテーマにした研修はほとんどありませんでしたから,多くの弁護士に関心を持っていただけたことに驚いています。
さて,これほどまで弁護士の関心が高まっている背景には,精神疾患を持っている方が犯罪を犯してしまった場合に,なかなか裁判員の理解が得られない,という問題があるように思われます。先日,大阪地方裁判所において,発達障害を持った被告人が同居していたお姉さんを殺害したケースで,検察官の求刑を上回る20年(有期懲役刑の上限です)の判決が言い渡され,各地の精神障害者の支援団体等から抗議の声明が出されました。
私もこの判決には問題があると考えますが,同時に多くの市民が「精神疾患があるというだけで,刑が軽くなったり,無罪放免になるのはおかしいのでは」という素朴な疑問を持っておられることには向き合う必要があると感じます。近代刑法は責任主義に立脚しているからとか,わが国でも養老律令の時代から精神疾患を患う方は不処罰とされてきた,というだけでは,なかなか納得が得られなくなって来ているのでしょう。
弁護人としては,ただ精神疾患があるから刑を軽くすべきであるとか,治療を受けさせるべきであると主張するのではなく,その根拠に遡って,裁判員も含めた「普通」の方々(何が「普通」かと言われそうですが,法律家でも,精神障害者の支援に関わる方でもない,という意味です。)に説明する必要があります。もし誤解があるのであれば,その精神疾患がどのような病気であり,どのような症状が出るのか,なぜそのような病気になるのか(遺伝的なものなのか,後天的なものなのか),そのような症状を抑えるにはどうすればよいのか,どうすれば再犯を防ぐことができるのかについて,正しい知識を提供する必要があります。そのためには,まずは弁護士自身がもっと彼らを知る必要があるでしょう。
私たちは,東京都江戸川区にある東京ソテリアを定期的に訪問し,ゼミや勉強会などを行って来ました。精神疾患を患った方やそのご家族,それらの方々を支援する専門職と交流し,お互いにどのような連携が可能であるのかを探って来ました。その中で,同じ統合失調症と言っても様々な症状の方がいらっしゃること,必要な支援のあり方もそれぞれに異なること,しかし,必要な支援さえあれば社会の中で生活することは十分に可能だし,実際にそのように生活している方がたくさんいることを知りました。こうした日常的な連携の中から,「普通」の方々にも通じる言葉を紡ぎ出していければと思っています。
(田岡)
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