為替デリバティブ
デリバティブの相談が増えています。デリバティブと言っても何のことだか分からない方も,いらっしゃるでしょう(私も最初に説明を受けたときは,よく分かりませんでした。)。簡単に言えば,為替や株価に連動して,利益が出たり,損失が出るという金融商品のことです。金融商品の世界では,「オプション」や「スワップ」などと呼ばれます。
商品と言っていますが,実態があるわけではありません。個人や中小企業が,銀行や証券会社との間で,為替が円安になった場合には得をするとか,円高になった場合には損をする,とあらかじめ取り決めておくわけです(ほとんどの商品が,円高になると損をするものでした。)。このような商品は,為替に連動するので為替デリバティブといいます。
このように説明すると,外貨預金とどこが違うんだろう?と疑問に持たれるかもしれません。たしかに,ドルやユーロ建ての外貨預金も,円安になれば得をしますし(外貨の価値が高くなる),円高になると損をします(外貨の価値が低くなる)。しかし,為替デリバティブの場合には,そのリスクが外貨預金よりもずっと高いのです。外貨預金であれば,いくら円高が進んでも預金残高がゼロになることはありません。1ドル120円が,1ドル80円に下がっても,価値が3分の2になるだけです。
ところが,為替デリバティブの場合には変動の幅が大きいため,ひどいときには価値がゼロになってしまいます。更に,「ノックアウト」「レシオ」などと呼ばれる特約が付いており,銀行や証券会社が絶対に損をしない,非常に巧妙な仕組みになっているのです。このような巧妙な仕組みは,デリバティブだけでなく,「仕組み債」や「仕組み預金」にも共通します。
このデリバティブが大きな問題となった原因は,いわゆるリーマンショックにより,急激な円高が進んだためです。これを購入させられたのは,ほとんどが輸入業者です。輸入業者は,外国から仕入を行います。そのため,円安になると仕入れ価格が高くなってしまいます。当時は為替相場が1ドル120円程度でしたから,輸入業者は円安に悩まされていました。
そこで,銀行が「リスクヘッジのため」などと称して,為替デリバティブを売り込みました。輸入業者も,メインバンクの勧めであれば断るわけにいきません。ところが,リーマンショックがあり,急激に円高になってしまったため,当時購入した為替デリバティブの価値がゼロになってしまった,というわけです。
もちろん,このような金融商品のリスクを十分に理解して買ったのであれば,問題はありません。しかし,ほとんどの場合に,十分な説明はなされていなかったようです。普段から付き合いのあるメインバンクの担当者に勧められて,よく分からずに購入してしまった輸入業者が少なくありませんでした。そのために数年前からADRや訴訟などが起こされるようになった,というわけです。
ADRというのは,裁判外の紛争解決手続のことです。分かりやすく言えば,間に人を入れて行う話し合いですね。為替デリバティブの場合には,全国銀行協会(全銀協)に申し立てることになります。全銀協のあっせんでは,商品の適合性(金融商品取引の経験があったかどうか,余裕資金だったかどうかなど,目的に適合する商品であったかどうか)や担当者の説明内容(商品のリスクを十分に理解できる説明を行ったかどうか)などに問題がある場合には,少なくとも,一定割合の賠償を行うように勧めています。
このまま泣き寝入りすれば1円も返ってきませんが,ADRや訴訟を申し立てれば返金が認められる可能性がありますので,やってみる価値は十分にあります。
このようなデリバティブを購入させられて損失を被ってしまったという個人や中小企業の経営者の方は,お気軽に弁護士にご相談ください。
(田岡)
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