ニセ医者事件に思う
東京都板橋区で健康診断を行っていた医師が、ニセ医者(なりすまし医師)だと分かったそうです。医師は現在行方不明だそうですが、所在が判明すれば医師法違反などの罪に問われることになるでしょう。
このニュースを聞いて思い出したのが、ニセ弁護士事件です。かつて私が赴任していた地域の管内で、弁護士と名乗って法律相談を受けたり、登記業務を行っている人がいるという情報が寄せられたため、弁護士会から調査を命じられたことがありました。聞き取り調査を行ってみると、たしかに弁護士という肩書きの名刺があり、手作りの権利証が作られていました。しかも、このニセ弁護士、この件だけでなく他にも相談を受けており、周囲から「先生」と呼ばれているというのです。
私は驚いて、「弁護士になりすまして、法律相談を受けたり、法律業務を行うのは犯罪ですよ」と言いました。ところが、この相談者は「先生にはお世話になったから、告発するようなことはしたくない。権利証が本物かどうかが分かれば、それでよかったのだ」といいます。他の人からも聞き取りをしましたが、みなさん、「先生」に感謝の言葉を述べるのです。
いくら弁護士が少ない地域と言っても、騙されたわけですから怒ってもいいはずです。なぜでしょうか。ここで私は、評判の悪いニセ医者はいない、という言葉を思い出しました。ニセ医者は自分がニセモノだと分かっていますから、ばれないように振る舞います。親切に話を聞いて、相談に乗ってあげます。患者は喜んで帰りますから、なかなかニセ医者だと発覚しません。ニセ弁護士にも、これと同じ問題があるのだと気づいたのです。
もちろん、健康診断といえども、異常が見つかれば早期に治療を受けなければ命を失うことさえ、ないとは言えません。弁護士の場合も同じで、法律相談で話を聞いて終わることもありますが、すぐに着手しなければ時効になってしまうなどして、大事な財産や権利を失ってしまう可能性があります。だからもそ、ニセ医者、ニセ弁護士は厳しく取り締まる必要があるわけです。
しかし、こうしたニセ医者、ニセ弁護士のニュースをを聞くたびに、本物の医師や弁護士の方も、もっと改善の余地があるのではないかとも考えさせられます。ニセ弁護士が必要とされるニーズがあるということは、本物の弁護士に相談するべき問題が相談されていない、ということです。私も「先生にはお世話になったから」と口々に感謝されるような本物の弁護士になりたいものです。
(田岡)
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