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2012年9月18日 (火)

なぜ弁護士は責任能力を争うのか

 先日「責任能力の難しさ」というコラムを書いたところ,多くのアクセスをいただきました。裁判員裁判になって責任能力が争われる事件が増えており,世間の関心が高まっているのでしょう。

 ところで,この責任能力という制度,世間では非常に評判が悪いです。なぜ,精神障害があるだけで無罪になるのか。本当は詐病ではないのか(あるいは,詐病ではないにしても,実際以上に病気を重く見せているのではないか。)。そして,詐病なのに責任能力を争っているのは,弁護士のせいではないか,というわけです。

 このような弁護士が全くいないとは思いませんが,多くは誤解に基づくものだと断言できます。

 多くの弁護士は,精神障害の影響により無罪となるべき人が無罪になっていない,と感じています。実際,裁判員裁判になってから,心神喪失と認められて無罪になった人はゼロです。日弁連が把握しているだけでも100件以上は責任能力を争った事件があるのにです。つまり,実際には責任能力を争っても,無罪にはならないのです。

 では,なぜ弁護士は争うのか。それは,自分には分からないからです。

 弁護士は,精神医学の専門家ではありません。被告人と接見して,何かおかしいな,と感じます。しかし,精神病なのか,そうでないのか分かりません。だからこそ,精神科医の判断を求めるのです。同じ有罪判決を受けるにしても,精神科医に診てもらい,裁判官と裁判員に正しく理解してもらった上で判断してもらい,と考えるか らです。

 もちろん,ときには明らかな妄想や幻覚を語ったり,全くコミュニケーションが取れない被告人もいます。ひどいときには自分が弁護士であることさえ分かってもらえないことがあります(法廷で裁判官は誰ですかと尋ねても,答えられない被告人がいます。)。ところが,これまではそういう被告人でも有罪とされて来ました。

 本来,このような被告人はまずは治療をして症状が改善してから,裁判を受けさせるべきです。なぜなら,自分が裁判を受けていることさえ分からないのでは,弁解があっても弁解を述べることができないからです。また,仮に犯人であることが間違いないとしても,なぜ裁判にかけられているのか分からなければ,反省しようにも反省のしようがないからです。

 法律は,このようなときのために,訴訟能力制度を定めています。訴訟能力がない被告人の公判は,症状が回復するまで停止することができるのです。いったん公判を停止して,被告人自身が裁判を理解できる状態になってから,裁判を行ってもらいたい。結論が正しければそれでよいだろう,というものではないと私は考えます。

(田岡)

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