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2012年9月

2012年9月28日 (金)

弁護士の専門認定は可能か?

先日、日弁連が弁護士の専門認定制度の創設を検討している、という報道がありました。報道によると、専門認定を検討してるのは、離婚、相続、交通事故、医療過誤、労働問題の5分野。3年以上の実務経験と3年間で10件以上の事件処理、20時間の研修受講などを要件とするようです。しかし、弁護士の中でも意見が割れており、見通しは立っていません。

専門性の問題を考えるときに、そもそも何を持って「専門」というのかという問題があります。事件を多く取り扱っていればそれだけで専門だと言えるのか、職員を使って大量処理していれば専門だというのはおかしいではないか、というわけです。他方で、知識や経験を保証するものだとすれば、誰がそれを判定するのかという問題が生じます。研修ばかり受講しても、実践で役に立たなければ意味がありません。日弁連の基準では、経験3年未満の弁護士が「専門」を謳うことを禁止する程度の意味(いわば足切り)しかないでしょう。

しかし、いまのまま何の基準もなくてよいのか、ということも考えなくてはなりません。弁護士の数は増えましたが、消費者は選ぶ基準がありませんから、インターネットやテレビCMを出している事務所を選ぶでしょう。中には、弁護士1年目、2年目なのに「○○専門」と自称している事務所もありますし、報酬も相場より高いところも珍しくありません(報酬基準が廃止されましたので、弁護士は自由に報酬基準を定めることができます)。足切りの意味しかなくても、こうした現状を放置しておくよりはまし、という考え方はあり得るでしょう。

最近は「口コミ」が流行りであり、顧客に評価してもらうという方法もあります。しかし、弁護士をよく利用する企業であればともかく、一度しか利用しない個人が弁護士の専門性を評価することは不可能でしょう。せいぜい、「接客が丁寧だったとか」「面談室がきれいだった」といったサービス面での評価しかできないでしょう(もちろん、接客態度に問題のある弁護士はいますか得、そういう評価も無意味ではないと思います)。ニセ医者事件のときにもコメントしましたが、親切な医者が腕のよい医者であるとは限らない、という難しさがあります。

いずれにしても、実務経験や取扱事件数などは公表しようと思えば、いますぐにでも公表できることです。また、研修の受講経験をわざわざ公表する弁護士はいないと思いますが、研修の講師を務めた経歴や主な著作は、専門性を知る手がかりにはなるでしょう。上から一律に規制するのではなく、個々の弁護士が消費者の選択に役立つように情報を公開するところから、まずは始めてはいかがでしょうか。

(田岡)

2012年9月27日 (木)

犯罪被害者のための損害賠償命令

 先日法テラスからある犯罪被害者の支援を求める電話がありました。相談の主は,傷害事件で半身不随になり,言語障害に陥った被害者の息子さんでした。とりあえず電話をして状況を尋ねると,加害者に損害賠償請求をしたいのだけれどどのようにしたら良いか分からない。検察官の説明は良く分からなかった。やり方がわからなかったら法テラスに行けと言われたので法テラスに相談して弁護士を紹介してもらったとのこと。また,この件は当然刑事事件になっており,話の様子から翌日は弁論終結予定だということがわかりました。

 「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」は、故意に人を殺傷する事件やレイプなどの被害者又はそのご遺族は、刑事事件が係属する地方裁判所に対し、損害賠償命令の申立てをすることができると定めています。
刑事裁判と民事裁判は全く別のものですから,従来は,加害者に対して損害賠償を求めるためには別途損害賠償請求の民事訴訟を起こさなければなりませんでした。最近になって設けられたこの損害賠償命令の制度は,刑事裁判の手続きの延長で,損害賠償についても判断してもらえるという制度で,犯罪被害者にとっては利用価値の高い制度なのです。

しかしその申立は弁論終結前に行わなければなりません。相談者はそのような制度があることを知りません。この制度を説明した上で利用するかどうかの意思を確認して、利用するのであれば、翌日の公判の弁論終結前に申立をしなければなりません。この申立を利用することを前提に相談者をお呼びし、それまでに公判担当検察官とやり取りして公訴事実等を聞き取りました。

夜事務所を訪れた相談者は当然のことながら損害賠償命令の制度を利用したいとのことでした。相談者の資力から、弁護士費用の点でも犯罪被害者の援助制度が利用できることを伝え、委任状を頂き、申立書を作成しました。被害者の労働能力は100%失われていましたから、損害には逸失利益も含まれます。いろいろ検討すると数千万円の損害になりました。そうした作業を行って、その日のうちに申立書を作成、翌日の公判の前に無事裁判所に申立をすることができましたが、相談が1日遅れていたら、あるいは弁護士の側に迅速に対応する余裕がなかったらこの制度は使えませんでした。

検察官の説明が悪かったのだとは思いません。そもそも一般の人は民事裁判と刑事裁判の区別を知らない人がほとんどです。だから、普通に説明しても、素人の人にはわからないのでしょう。もちろんそれをそのままにしておいて良いわけではありません。犯罪被害者に法的支援をするのは弁護士の役目でもあります。検察官が犯罪被害者に対して弁護士に相談することを気軽に勧め、弁護士の側も責任を持って対応する体制を作ることが大切だと思いました。

(櫻井)

2012年9月26日 (水)

10月,11月の神山ゼミ

神山ゼミを以下の要領で行います。皆様のご参加をお待ちしています。

日時
平成24年10月23日(火) 午後6時から午後8時30分ころまで

場所
伊藤塾東京校 131教室(協栄ビル3階)
http://www.itojuku.co.jp/keitai/tokyo/access/index.html

備考
法曹、修習生、学生に開かれた刑事弁護実務に関するゼミです。刑事弁護を専門にする神山啓史弁護士を中心に、現在進行形の事件の報告と議論を通して刑事弁護技術やスピリッツを磨いていきます。
終了後には懇親会も予定しています。
参加を希望される方は予めメールにて,下記の事項を古宮までご連絡下さるようお願いします。

[件名] 10月の神山ゼミ
[内容]
・氏名:
・メールアドレス:
・懇親会参加の有無:

日時
平成24年11月29日(木) 午後6時から午後8時30分ころまで

場所
伊藤塾東京校伊藤塾521B教室(5号館2階)
http://www.itojuku.co.jp/keitai/tokyo/access/index.html

備考
法曹、修習生、学生に開かれた刑事弁護実務に関するゼミです。刑事弁護を専門にする神山啓史弁護士を中心に、現在進行形の事件の報告と議論を通して刑事弁護技術やスピリッツを磨いていきます。
終了後には懇親会も予定しています。
参加を希望される方は予めメールにて,下記の事項を古宮までご連絡下さるようお願いします。

[件名] 11月の神山ゼミ
[内容]
・氏名:
・メールアドレス:
・懇親会参加の有無:

2012年9月25日 (火)

クレーム対応の難しさ

 クレームが発生した時に、企業がどのような対応を取るかは重要な問題です。私は以前欠陥自動車の裁判を何件か担当したことがあります。当時の運輸省は今よりも欠陥に対してずっと鈍感だったので、メーカーも平気で欠陥隠しをしていました。

その中で、対照的な対応をしていたのがトヨタと日産でした。いずれも欠陥は隠そうとするのですが、トヨタは検査を申し出て、車両の検査をしてくれました。その上で、どのような検査をしてどのような結果が出たかを説明してくれました。こちらの主張が通らなくても、被害者はここまでチェックして原因が判明しなかったのなら仕方がないとあきらめることができました。
 
これに対して日産は、個々のディーラー任せでそういうチェックすら受け付けようとしませんでした。裁判をやっても、高い技術と整備された工場で何万台も生産しているが、そのような欠陥は報告されてないなどと言ってくる。報告、握りつぶしているだけだろう。何万台も生産して1台も不具合がないこと自体を疑え。米国が技術の粋を尽くしたスペースシャトルだって墜ちているではないか、などと主張しても、被害者をクレーマー扱いでした。

裁判官の面前で欠陥現象を再現して勝ったケースもありますが、負けたケースも少なくありませんでした。ただ、このような姿勢は、裁判では勝てても市場では勝てませんでした。批判に謙虚に耳を傾けようとしない独善的な企業は、消費者には支持されないということです。
 
クレームを商品やサービスの改良のチャンスと考えれば、対応の仕方はおのずと変わってきます。個々の要求に常にYESと応じるわけには行かないでしょうが、NOと言うにも言い方が違ってくるでしょう。個々の消費者の情報がかつてなく迅速かつ広範囲に広がるこの時代にあって、クレーム対応の重要性は飛躍的に高まっているように思います。
 
なお、自動車の欠陥については、三菱トラックの事故が欠陥によるものと発覚して以来、国交省もメーカーもかなりきちんとするようになってきている印象を受けます。

(櫻井)

2012年9月24日 (月)

なぜ弁護士は責任能力を争うのか(続)

前回、弁護士が責任能力を争うのは、精神科医に診てもらわないと自分では分からないからだと書きました。しかし、このような考えに対しては、なるほど病気かどうかは精神科医に診てもらわないと分からないかもしれないが、精神鑑定で病気でないとか、病気だけれども犯行に影響はなかったという意見が出れば、争うことはないのでは、という疑問を持たれる方もいらっしゃると思います。

たしかに、そのような場合もあります。精神鑑定が行われた結果、病気でないことがはっきりしたり、病気だけれども犯行には影響がなかった(厳密には、著しい影響まではなかった)ということがはっきりすれば、責任能力を争わずに量刑だけを争うことも決して少なくありません。

しかし、実際には、素人なりに考えても、精神鑑定の内容が納得できないものであったり、他の精神科医に相談してみると全く異なる見解が述べられるということも、珍しいことではないのです。そうなると、元に戻って、分からない以上はきちんと検察官の立証してもらい、裁判官と裁判員に判断してもらおう、ということになります。

更に、精神鑑定の内容自体に争いがなくても、法的にみて、心神喪失つまり無罪とすべき状態なのか、心神耗弱すなわち刑を減軽すべき程度なのか、いずれでもなく完全責任能力の状態なのかの判断は残ります。これは法的判断ですから、仮に精神科医が意見を述べても、それに拘束されることはありません(裁判員裁判では、精神科医はこの意見を述べないことも増えています。)。

そうなると、病気の影響があったことは間違いないけれども、検察官のいうように完全責任能力ではなく、心神耗弱あるいは心神喪失の状態にあったのではないか、という疑問を持つことがあり得ます。この場合も、さきほどと同様に、疑問がある以上は検察官に立証してもらい、裁判官と裁判員に判断してもらおうということになります。

弁護人は、判断者ではありません。最近、検察官が非常に弱気で、起訴すれば有罪になる事件もどんどん不起訴にしてしまい、起訴しても争わないということが増えています。殺人未遂などは、殺意の立証が難しいということで、ほとんどが不起訴または傷害での起訴となっています。これでは、検察官自身が判断者になってしまっています。私は弁護人の立場ですが、疑問があれば疑問を提示し、裁判官と裁判員の正しい判断を可能にするのが役割だと考えています。

もともと、裁判というのはすぐれて個別具体的な営みであるはずです。責任能力という制度も、制度が先にあったのではなく、精神障害を持っている人を処罰するのはかわいそうだとか、治療を受けさせるべきだという、その時代の人々の判断が先にあったはずです。

わが国でも近代刑法が成立するはるか以前、養老律令の時代には精神病者の不処罰ないし減免規定があったことがしられています。高齢者や少年についても同様です。もっとも、他方でさまざまな権利が制限されていました。

いまは高齢者だからと言って、刑を軽くしようと考えいる人はあまりいないと思いますし、少年法についても見直しの議論が絶えずなされている状況です。責任能力についても、徐々にではありますが心神喪失の範囲が狭められ、精神障害者を処罰する方向に傾いているように思えます。

しかし、抽象的にノーマライゼーションだからとか、アメリカでも厳しくなっているからという理由で進められるべきものではなく、また、一部の裁判官や精神科医の判断によって進められるべきものでもないでしょう。裁判員の参加した裁判の積み重ねによって、必要があれば、徐々に変わっていくものだろうと思います。

そして、その判断が正しい判断であることを担保するためには、個別具体的な事件において、弁護人が的確な主張立証をし、個々の裁判官・裁判員に対して、本当にそれでよいのかを問いかけて行くことが必要でしょう。私が責任能力を争うのは、そんな理由からです。

(田岡)

2012年9月21日 (金)

原発で分断される住民達

 原発賠償の支援に関わり1年半近くが経過しました。昨年の3月11日以後、蹴飛ばされるように(ある避難者が言っていた言葉です)避難を余儀なくされた方がまた困難な問題に直面しています。町や村に帰還できない期間が今後何年に及ぶのかということが自治体関係者や住民を苦しめています。

 今年の4月以降、避難指示区域(主に福島第一原発から20キロ圏内の地域と計画的避難区域)の再編が行われていますが、未だ見直しがされない自治体がいくつかあります。大熊町、双葉町、浪江町、富岡町、葛尾村です。

区域の見直しというのは、年間放射線量に応じて、低い順に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域に分けるということです。例えば、南相馬市の小高区は今年の4月16日からその大半が既に避難指示解除準備区域に指定され、その結果立入りが今は自由になっています(但し、宿泊は今も禁止)。

 しかし、先に挙げた自治体では見直しがなされていないことから、未だ立入りも除染も目途が立っていません。見直しが遅れている理由のひとつには、どの区域に分類されるかで東京電力から受ける賠償額が異なってくることが挙げられます。

例えば、経済産業省が今年の7月20日に公表した「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」では、帰還困難区域では不動産について全額賠償するが、居住制限区域、避難指示解除準備区域については解除までの期間に応じて賠償するとされています。

しかし、避難指示から既に1年半以上も経過している中、避難者の中には既に避難先で就労先を見つけたり、子どもがようやく学校に慣れ始めたりして、既に戻らない(というよりは戻れない)と考えている方がかなりいます。主に若い世代に多いようです。このような方にとっては避難指示が何年後に解除されるかという問題より、新たな場所で生活を再建できるだけの賠償額をきちんと受け取れるのかということが重大な関心事になります。

一方で、自分の住んでいた地域が5年以上も帰還できない帰還困難区域と指定されることが耐え難いと感じる方もいます。特に高齢者であればそうでしょう。生きている内に自分の家に戻りたいと思うのは自然なことです。一刻も早く除染が始まり、解除されるのをじっと待っている人にとって区域の見直しは重大な問題です。

残念ながらこのように同じ地域の人でも求めるものが既に異なってしまっています。家族内でも意見が分かれることです。実際、親世代は福島の狭い仮設で帰還できる日を待ち、子供・孫世代は離れた地域で新たな暮らしを始めているという家族をいくつも見てきました。元々同居していた孫に会いに行きたいのにその交通費すら東京電力は出してくれないのかという相談を何度も受けました。

人々が物理的にも精神的にも分断されてしまったこと自体が原発事故の最大の被害かもしれません。

東京電力は経済産業省が公表した新しい賠償基準を受けて、見直された区域に応じて賠償金を支払う旨発表をしています。一方で区域の見直しがされるまでは、不動産や家財の賠償は認否保留、すなわち今は賠償しないという態度をとっています。賠償の遅れが避難者をよりいっそう苛立たせています。区域の見直しが決まらないこと自体が避難者の生活再建を遅らせるといういわば悪循環に陥らせているのです。

しかし、本来、いつ避難指示が解除されるかという区域の見直しと賠償は必ずしもセットで語られる問題ではありません。帰還か賠償かという究極の選択を自治体や住民にさせることも妥当ではありません。早く帰りたい人にも帰れないと考えている人にも十分な賠償を早急にするべきなのは当然のことです。

解決すべき問題は山積みですが、せめて弁護士として被災者ひとりひとりの声に耳を傾け、法的サポートをしていければと考えています。


(亀井)

2012年9月20日 (木)

遺言のススメ(2)--遺言執行者の死亡

 前回,遺言を作るには遺言執行者が必要だと書きました。遺言執行者は相続人でもなれますが,弁護士などの専門家の方がよいでしょう。一度,遺産分割協議を行った方であれば分かるかと思いますが,登記名義を変更したり,預貯金を解約するのは,けっこう面倒なものです。遺言執行者に弁護士を指定しておけば,こうした面倒なことを全て任せることができます。

 ところで,まれに遺言執行者の方が先に亡くなる,ということが起こります。私ども弁護士が依頼を受けるときは,そういうことが起こらないように,ご依頼者よりも若い弁護士が遺言執行者になるように注意しています。しかし,何が起こるかは分かりません。私自身も遺言執行者になっている遺言がありますが,みなさんとてもお元気です。遺言を執行するのが,10年先になるのか,20年先になるのか,そのときになってみないと分かりません。

 また,遺言執行をしようにも,その方が亡くなったことに気付かないこともあり得ます。亡くなられた方が遺言があることを周囲に伝えていたり,貸金庫に謄本を預けておいていただけるとよいのですが,誰も気付かないと,遺言執行者に連絡がないことがありえます。そのために,遺言を作ったものの,執行されないことが起こり得るのです(貸金庫があれば貸金庫に保管し,そうでないときは身近な人には遺言があることを伝えておく方がよいでしょう。)。

 遺言執行者が亡くなったときは,裁判所に遺言執行者の指定を申し立てることになります。申し立てる裁判所は,亡くなった方の住所地を管轄する家庭裁判所です。そうすれば,新しい遺言執行者が選任され,遺言に書かれたとおりに執行してもらえます。万一,遺
言執行者が亡くなっても,安心というわけです。

(田岡)

2012年9月19日 (水)

遺言のススメ(1)--遺言執行者の指定

 いま,遺言がブームです。『簡単遺言作成マニュアル』とか,『遺言ノート』のような本が出回っています(たまたま同じ書名の本があるかもしれませんが,他意はありませんのでご容赦ください。)。
団塊の世代がリタイアする時期を迎え,次の世代のことを考える時期に差し掛かっているのでしょう。

 遺言を作るのはよいことです。遺言を作っておかなかったために,兄弟姉妹がどろどろの争いを繰り広げ,5年も10年も遺産分けで揉めている,というケースは珍しくありません。

 とくに親御さんと同居していた長男と,それ以外の兄弟が両親の遺産を争うというケースが多いですね。長男からすれば親の面倒を看たのだから多くもらって当然ということになりますし,兄弟からすれば長男ばかりかわいがってもらってずるい,となるのでしょう。

 このようなときに,遺言があれば紛争を予防できます。自分が亡くなったときは,長男に相続させる,と書いておけばよいわけです。

 生前に贈与することもできますが,贈与税がかかりますし(ただし,相続時精算課税制度という制度があります。とくに住宅資金の場合には,特例が使える可能性があります。),先に渡してしまうと,それ以降面倒を看てもらえなくなった,ということが起こりえます(いわゆる忘恩行為として取消しが問題となります。)。

 そこで遺言を作るわけですが,遺言には,自筆遺言と公正証書遺言があります。自筆遺言は,簡単に作成することができますが,要件を満たしていないと無効になりやすいという問題があります。できれば,公正証書遺言の方がよいでしょう。公正証書遺言は,公証
人役場に相談すれば自分でも作ることができますが,できれば,専門家に相談した方がよいでしょう。遺言は作るだけではダメで,執行しなければならないからです。

 遺言を執行する人のことを,遺言執行者といいます。遺言を作るには,遺言執行者を指定しなければなりません。遺言執行者は,遺言に書かれたとおりに職務を執行します。不動産であれば,登記名義を変更します。相続人自身が遺言執行者になることもできますが,専門家に依頼することもできます。公正証書遺言の作成を弁護士に依頼する場合には,遺言執行者も弁護士を指定することが多いでしょう。

遺言のことが気になりましたら,まずはお気軽にご相談ください。

(田岡)

2012年9月18日 (火)

なぜ弁護士は責任能力を争うのか

 先日「責任能力の難しさ」というコラムを書いたところ,多くのアクセスをいただきました。裁判員裁判になって責任能力が争われる事件が増えており,世間の関心が高まっているのでしょう。

 ところで,この責任能力という制度,世間では非常に評判が悪いです。なぜ,精神障害があるだけで無罪になるのか。本当は詐病ではないのか(あるいは,詐病ではないにしても,実際以上に病気を重く見せているのではないか。)。そして,詐病なのに責任能力を争っているのは,弁護士のせいではないか,というわけです。

 このような弁護士が全くいないとは思いませんが,多くは誤解に基づくものだと断言できます。

 多くの弁護士は,精神障害の影響により無罪となるべき人が無罪になっていない,と感じています。実際,裁判員裁判になってから,心神喪失と認められて無罪になった人はゼロです。日弁連が把握しているだけでも100件以上は責任能力を争った事件があるのにです。つまり,実際には責任能力を争っても,無罪にはならないのです。

 では,なぜ弁護士は争うのか。それは,自分には分からないからです。

 弁護士は,精神医学の専門家ではありません。被告人と接見して,何かおかしいな,と感じます。しかし,精神病なのか,そうでないのか分かりません。だからこそ,精神科医の判断を求めるのです。同じ有罪判決を受けるにしても,精神科医に診てもらい,裁判官と裁判員に正しく理解してもらった上で判断してもらい,と考えるか らです。

 もちろん,ときには明らかな妄想や幻覚を語ったり,全くコミュニケーションが取れない被告人もいます。ひどいときには自分が弁護士であることさえ分かってもらえないことがあります(法廷で裁判官は誰ですかと尋ねても,答えられない被告人がいます。)。ところが,これまではそういう被告人でも有罪とされて来ました。

 本来,このような被告人はまずは治療をして症状が改善してから,裁判を受けさせるべきです。なぜなら,自分が裁判を受けていることさえ分からないのでは,弁解があっても弁解を述べることができないからです。また,仮に犯人であることが間違いないとしても,なぜ裁判にかけられているのか分からなければ,反省しようにも反省のしようがないからです。

 法律は,このようなときのために,訴訟能力制度を定めています。訴訟能力がない被告人の公判は,症状が回復するまで停止することができるのです。いったん公判を停止して,被告人自身が裁判を理解できる状態になってから,裁判を行ってもらいたい。結論が正しければそれでよいだろう,というものではないと私は考えます。

(田岡)

2012年9月14日 (金)

弁護士は新手の詐欺にご注意

最近新手の詐欺の情報を得ました。
外国にいる日本人女性からの相談。外国人男性と離婚して高額な慰謝料を支払ってもらうことになったが履行されない。ついては交渉してほしいとのこと。交渉すると、意外に早く話がつき、相手の男性が支払ってくれることになった。数日後、相手の男性が第三者振出しの小切手を送ってきたので取立てに回した。その間依頼者の女性からは矢の催促。

取立てに時間がかかっていることを説明すると、額面を立て替えて先に払ってくれとのこと。とても困っているので何とかしてくれという連絡が頻繁に入る。ところが数日後、その小切手が偽造だったとわかった。詳しい説明を求めると、依頼者の女性からの連絡は途絶えた。ちなみに着手金は未だ受領していない。

明らかに男女ぐるになっての詐欺ですね。小切手の偽造はいずればれることを見越して弁護士を急き立て、立替名目で金をだまし取ろうとしたものと思われます。油断も隙もない時代になったものです。皆さんも十分ご注意ください。

(櫻井)

2012年9月13日 (木)

養育費や面会交流の取り決めは,半数以下

 今年4月の民法改正により,子どもがいる夫婦が離婚する際には,養育費の支払いや,子どもとの面会交流について取り決めることになりました(民法766条)。これにあわせて,離婚届の書式が変更され,「面会交流」と「養育費の分担」について「取決めをしている」「まだ決めていない」にチェックすることになりました(http://www.moj.go.jp/content/000011717.pdf)。ただし,離婚の要件ではないので,チェックしなければ受理されないということではありません

 ところが,読売新聞の記事によると,4月から6月までの3か月間で,実際に取り決めた夫婦は,全体の半数に満たなかったことが分かったとのことです(面会交流は48%,養育費は49%しか,「取決めをした」という回答がありませんでした。)。離婚後に取り決めた夫婦もいるはずですから,実際には半数よりは増えるはずです。しかし,養育費の取り決めをしても支払われないことも少なくありませんから,このうち,どれだけの方が実際に養育費の支払いを受けられているかは分かりません。

 養育費が支払われなかったり,親との面会ができないことは,何よりも子どもにとって不幸なことです。しかし,それだけでなく,社会保障費が増大するという意味では,国の財政にも影響する問題でもあります。厚生労働省は,公益社団法人家庭問題情報センター(FPIC)に委託して,養育費相談支援事業を行っています(http://www.youikuhi-soudan.jp/)。また,面会交流に関しても,東京都は,今年5月から面会交流支援事業を行っています。これまで,日本では,離婚は夫婦間の問題と捉えられてきたため,行政による支援が手薄でしたが,こうした支援事業が始まったことは歓迎したいと思います。

 諸外国を見ると,日本のように協議離婚が認められている国の方が少数です。離婚をするためには裁判をしなければいけない国や,夫婦が合意している場合でも裁判所の許可が必要である国もあります。そもそも離婚が認められず,別居という制度をおいている国もあります。また,アメリカなどでは,養育費を強制的に取り立てるための公的機関が整備されています。これらは,子どもの養育費や面会交流が,夫婦間の私的な問題でなく,社会や国が関心を持つべき公的な問題であることを示していると言えます。

 今後は,夫婦間での取り決めに任せるのではなく,行政や司法が積極的に関与し,子どもの福祉という観点から,適正な取り決めがなされるように支援していく必要があるでしょう。

読売新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120910-00000040-yom-soci

法務省 夫婦が離婚をするときに--子どものために話し合っておくこと
http://www.moj.go.jp/content/000097765.pdf

養育費相談支援センター
http://www.youikuhi-soudan.jp/

東京都福祉保健局
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kodomo/hitorioya_shien/menkai/zigyou/index.html

東京都ひろり親家庭支援センター
http://www.haat.or.jp/

(田岡)

2012年9月11日 (火)

66期修習予定者事務所説明会のお知らせ

本日,司法試験の合格発表がありました。合格者の皆さん,おめでとうございます。

さて,桜丘法律事務所では,下記要領にて司法試験合格者(66期修習予定者)に対する事務所説明会を行います。

参加希望者は,件名を「事務所説明会参加希望」として,
①名前②メールアドレス③参加希望日④懇親会参加希望の有無を明記の上,古宮(komiya@sakuragaoka.gr.jp)宛にメールにて申込をして下さい。

当事務所は,日弁連のひまわり基金公設事務所又は法テラスのスタッフ弁護士として地方で勤務する新人弁護士の養成を続けてきています。弁護士過疎解消をはじめ,公益的な弁護士業務に幅広く関心のある方のご参加をお待ちしています。

また,当日は刑事専門弁護士である神山啓史弁護士による,刑事弁護ロールプレイも予定されています。刑事事件に興味のある方も是非ご参加下さい。なお,準備の都合上,各回先着30名とさせて頂きますのでご了承下さい。

なお,当事務所では,66期に関しては法テラススタッフ弁護士の新スキーム養成を予定しています。そのため,本説明会は当事務所の採用活動と直結するものではありませんので,予めお断りしておきます。

第1回 平成24年10月12日(金)  18:00~20:00頃まで
第2回 平成24年11月5日(月)   18:00~20:00頃まで
場所はいずれも伊藤塾渋谷協栄ビル3階の132号教室
(東京都渋谷区桜丘町17-6,伊藤塾本館の隣のビル)

説明会内容
 第1部 約60分
 ひまわり基金公設事務所・法テラスと桜丘法律事務所のあゆみ
   櫻井光政所長
第2部 約60分
刑事弁護人の心構えと刑事弁護ロールプレイ
神山啓史弁護士
終了後,事務所見学と懇親会を予定しています。

〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町18-4 
二宮ビル2階 桜丘法律事務所
電話 03-3780-0991
FAX 03-3780-0992
HP  http://www.sakuragaoka.gr.jp/
担当者  古宮靖子(komiya@sakuragaoka.gr.jp

ニセ医者事件に思う

東京都板橋区で健康診断を行っていた医師が、ニセ医者(なりすまし医師)だと分かったそうです。医師は現在行方不明だそうですが、所在が判明すれば医師法違反などの罪に問われることになるでしょう。

このニュースを聞いて思い出したのが、ニセ弁護士事件です。かつて私が赴任していた地域の管内で、弁護士と名乗って法律相談を受けたり、登記業務を行っている人がいるという情報が寄せられたため、弁護士会から調査を命じられたことがありました。聞き取り調査を行ってみると、たしかに弁護士という肩書きの名刺があり、手作りの権利証が作られていました。しかも、このニセ弁護士、この件だけでなく他にも相談を受けており、周囲から「先生」と呼ばれているというのです。

私は驚いて、「弁護士になりすまして、法律相談を受けたり、法律業務を行うのは犯罪ですよ」と言いました。ところが、この相談者は「先生にはお世話になったから、告発するようなことはしたくない。権利証が本物かどうかが分かれば、それでよかったのだ」といいます。他の人からも聞き取りをしましたが、みなさん、「先生」に感謝の言葉を述べるのです。

いくら弁護士が少ない地域と言っても、騙されたわけですから怒ってもいいはずです。なぜでしょうか。ここで私は、評判の悪いニセ医者はいない、という言葉を思い出しました。ニセ医者は自分がニセモノだと分かっていますから、ばれないように振る舞います。親切に話を聞いて、相談に乗ってあげます。患者は喜んで帰りますから、なかなかニセ医者だと発覚しません。ニセ弁護士にも、これと同じ問題があるのだと気づいたのです。

もちろん、健康診断といえども、異常が見つかれば早期に治療を受けなければ命を失うことさえ、ないとは言えません。弁護士の場合も同じで、法律相談で話を聞いて終わることもありますが、すぐに着手しなければ時効になってしまうなどして、大事な財産や権利を失ってしまう可能性があります。だからもそ、ニセ医者、ニセ弁護士は厳しく取り締まる必要があるわけです。

しかし、こうしたニセ医者、ニセ弁護士のニュースをを聞くたびに、本物の医師や弁護士の方も、もっと改善の余地があるのではないかとも考えさせられます。ニセ弁護士が必要とされるニーズがあるということは、本物の弁護士に相談するべき問題が相談されていない、ということです。私も「先生にはお世話になったから」と口々に感謝されるような本物の弁護士になりたいものです。

(田岡)

2012年9月10日 (月)

交通事故は行政書士に?

 最近,行政書士の広告が増えました。「交通事故は行政書士へ」「離婚は行政書士へ」など,権利義務をめぐる紛争についても行政書士が相談を受けられるかのように誤解させるものが少なくありません。ひどいものになると「不倫・浮気専門」「プロ行政書士」のように専門性を謳ったり,「○○相談所」とか「○○センター」のように,あたかも公的な相談機関であるかのように装うものさえあります。費用についても,「増額分の○%」といった成功報酬を受け取っているものがありますし,その金額も弁護士報酬より高額であるものさえあります。

 初めて法律問題に遭遇した方にとっては,弁護士と司法書士,行政書士の区別が付きづらいのでしょう。そのために,インターネットで検索したり,知り合いの法律家に相談しようとして,行政書士に相談されるのだと思います(浮気や不倫で検索して出てくるのは,ほとんどが行政書士のホームページです。)。行政書士も,官公署に提出する書類のほか,権利義務・事実証明に関する書類の作成の代理を行うことができますから,内容証明郵便の作成等が直ちに違法であるとまで言うつもりはありません。しかし,代理人として交渉し,その対価として成功報酬を受け取るとなれば,実質的には,弁護士及び司法書士が行うべき法律業務に他なりません。

 もちろん,交通事故の後遺障害等級認定等の異議申立書の作成とか,慰謝料の支払義務を認める公正証書の作成等の限られた場面では,行政書士でも対応できる場合があるでしょう。しかし,多くの場合には,それだけでは終わりません。離婚事件であれば,単に不貞の相手方に慰謝料を請求するだけではなく,配偶者との間で親権者,養育費,面会交流,財産分与,慰謝料のほか,年金分割等を取り決める必要があります。その際には,養育費や財産分与の算定方法につき,専門的な知識が要求されることになります。子どもの親権など,その子の一生を決めてしまいかねない重要な問題を取り扱うことになります。

 また,交通事故の損害賠償に関しても,仮に異議申立てにより後遺障害の等級認定が認められたとしても,示談交渉で保険会社が支払う金額には上限があります。保険会社は,自賠責基準,任意保険基準のほか,弁護士基準,裁判基準(赤本基準)など複数の基準を使い分けています。自分で示談交渉を行ったり,行政書士が就いて示談交渉を行うより,弁護士が代理人に就いたり,訴訟を起こした方が,賠償額が高額になる仕組みになっているのです。行政書士が相談を受ける場合に,こうした情報を正しく説明しているのだろうか,という疑問なしとしません(私の経験では「弁護士に頼むと,費用が百万円はかかる」と言って依頼を断念させた例がありましたが,そんなことはありません。)。

 もちろん,行政書士の中にも,きちんとした方はいらっしゃいます。私どもも,行政書士のほか,司法書士,税理士,社会保険労務士など他の士業の方々とも,日常的にお付き合いがあります。ですから,行政書士に相談してはダメだというつもりはありません。そうではなく,それぞれに専門分野がありますから,うまく使い分けましょう,ということです。風邪であれば知り合いの看護師に相談して市販薬を飲んでもいいでしょうが,癌のような重い病気は専門の医師に手術してもらわないと,手遅れになってしまうことがあります。誰に相談したらよいか分からないときは,法テラスなどの公的機関に相談されるとよいでしょう。

(田岡)

2012年9月 7日 (金)

刑事弁護士の探し方

知り合いの弁護士に「最近は刑事弁護でも,インターネットで広
告を出す弁護士がいるよ」という話をしたら,「え!そんなに大事
なことを相談するのに,インターネットで探すの!?」と驚かれま
した。この弁護士は刑事事件はまったく取り扱わないそうですが,
多くの弁護士の率直な感想としてはこのとおりであろうと思います。

 刑事弁護は,弁護士の活動により,身体拘束される期間が延びる
かどうかが決まります。もちろん事件によりますが,ちかんや傷害
事件などの軽微な事件であれば,早期に弁護士に依頼していればす
ぐに釈放されたのに,弁護士に依頼しなかったがために20日間拘
束されてしまう,ということが実際にあります。また,否認事件
の場合でも,捜査段階で弁護士を付けていれば有罪にはならなかっ
たのでは,と思わされることが少なくありません。

 しかし,インターネットで探す方には,探すなりの理由があるわ
けです。多くの人は知り合いに弁護士がいません。そうすると,ど
の弁護士がいい弁護士で,どの弁護士が悪い弁護士なのかが分かり
ません。数年前までは広告も禁止されていましたから,なおさらで
す。名前と年齢,顔写真で選ぶ,というのでは,占いの世界と変わ
りません。

 それでも,時間があれば,いい弁護士にたどりつく可能性が高い
でしょう。しかし,刑事事件の場合には,時間との争いです。1日,
2日弁護士に依頼するのが遅れただけで,身体拘束が長引いてしまっ
たり,自白調書をとられてしまう可能性があります。一刻も早く弁
護士に依頼したい。そのためにインターネットでも探せる24時間
対応の事務所が選ばれてしまう,というわけです。

 しかし,実際のところ,弁護士の能力というのは玉石混淆です。
その中から弁護士を選ぶのは,まさに至難の業でしょう。卑近な例
ですが,私も最近歯医者を探していて,どの歯医者がいいのか分か
らず,本当に困りました。どこも似たようなホームページなので選
ぶ基準がなくて・・・。しかし,弁護士のホームページも,似たり
よったりでしょう。

 普段から知り合いの弁護士を作っておくというのが最善の予防策
ですが,そうでない場合でも,ホームページなどを通じて,弁護士
を選択できる情報をできる限り提供したいと考えています。

(田岡)

2012年9月 6日 (木)

裁判員裁判における精神鑑定

 「季刊刑事弁護」という雑誌があります。弁護士と検察官・裁判
官以外では,拘置所の中の方がよく読んでおられるようです(とき
どき,弁護をお願いしたいという手紙が届きます。)。櫻井も,当
事務所の新人弁護士の奮闘を綴った「桜丘便り」を連載中です。

 半年ほど前になりますが,精神科医の先生方にご協力いただき,
「裁判員裁判における精神鑑定」という特集を組みました。私は,
日弁連が収集した裁判員裁判の判決65件の分析を行っています。
裁判員裁判が始まって3年が経ちますが,裁判員はどのような判決
を言い渡しているのか,それには(裁判官と異なる)どのような特
徴があるのか,という観点から取り上げたものです。

 さて,インターネット上では,裁判員裁判に対する批判的な意見
を目にすることがあります。また,責任能力を争う弁護活動につい
ても,批判的なコメントが少なくないようです。しかし,私が目に
したものに限って言えば,あまり実態をご存じないのではないか,
と感じるものが少なくありません。

 たしかに,精神鑑定の中には問題のあるものもありますし,弁護
活動の中にも問題のあるものはあります。裁判員の出す判決の中に
は,とんでもないものもあるでしょう。しかし,それらは全体の中
で見れば一部であり,制度自体に内在する問題でもないはずです
(新聞報道は一部を切り取って報道するために,正確でない場合も
多いです)。

 具体的なケースに即して,いったいどこにどのような問題があり,
それがなぜ生じたのかということを分析する必要があるでしょう。
その中から,よりよい制度にするためには,どうすればよいかとい
う方向性も見えてくるはずです。いまの制度はダメだとか,この判
決は問題だというだけでは,ではどうすればいいのか?という答え
が見えてきません。裁判員制度を廃止しても,昔の裁判官裁判に戻
るだけです。果たして,それでよいのでしょうか。

 いまの裁判員裁判における精神鑑定の実際を知っていただき,こ
れからの裁判員裁判と精神鑑定のあり方を考えていただくきっかけ
として,弁護士以外の方にも,お読みいただければと願っています。
ただ,季刊刑事弁護は,弁護士でも読まない人が多いようなので,
本当はもっと弁護士に読んでもらいたいです。

季刊刑事弁護69号 [特集:裁判員裁判における精神鑑定]
http://218.42.146.84/genjin//search.cgi?mode=detail&bnum=20213

また,70号では,鈴木穂人さんと共同受任したケースの報告が載っ
ています。東京ソテリアの野口さん,中西さん,小林さんにコメン
トしていただきました。

季刊刑事弁護70号 「ケース2:パーソナリティ障がい・放火、福祉サービス事業所との協働 鈴木穂人/中西章子/小林加奈/野口博文」
http://218.42.146.84/genjin//search.cgi?mode=detail&bnum=20219

(田岡)


2012年9月 5日 (水)

5年を超える有期契約は「期間の定めのない」契約に

  労働契約法が,改正されました。今回の改正の眼目は,パートやアルバイトなどの有期雇用契約が5年を超えて更新された場合には,労働者から申し入れることにより,「期間の定めのない」契約に転換される,ということです。

 期間の定めのない契約への転換権は,施行から5年経たないと適用されません。したがって,現実に転換権が行使されるのは,5年以上先のことになると考えられます。また,この改正法の適用を免れようとする企業は,5年以内に雇い止めにしようとするでしょう。ここ数年は,雇い止めが有効かどうかが争われることが増えそうです。

 重要なことは,改正法がなくても,雇用継続につき合理的な期待が認められる場合には,合理的な理由なく雇い止めにしてはならない,という判例があったことです。今回の改正では,この判例も明文化されています。今回の改正は,少なくとも5年を超えて更新されている場合には合理的な理由なく雇い止めにすることは許されないことを明確にしたことにあり,5年以下の場合であれば雇い止めが有効になるという趣旨ではない,と考えるべきでしょう。

厚生労働省「労働契約法が改正されました~有期労働契約の新しいルールができました~」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/

(田岡)

2012年9月 4日 (火)

為替デリバティブ

 デリバティブの相談が増えています。デリバティブと言っても何のことだか分からない方も,いらっしゃるでしょう(私も最初に説明を受けたときは,よく分かりませんでした。)。簡単に言えば,為替や株価に連動して,利益が出たり,損失が出るという金融商品のことです。金融商品の世界では,「オプション」や「スワップ」などと呼ばれます。

商品と言っていますが,実態があるわけではありません。個人や中小企業が,銀行や証券会社との間で,為替が円安になった場合には得をするとか,円高になった場合には損をする,とあらかじめ取り決めておくわけです(ほとんどの商品が,円高になると損をするものでした。)。このような商品は,為替に連動するので為替デリバティブといいます。

 このように説明すると,外貨預金とどこが違うんだろう?と疑問に持たれるかもしれません。たしかに,ドルやユーロ建ての外貨預金も,円安になれば得をしますし(外貨の価値が高くなる),円高になると損をします(外貨の価値が低くなる)。しかし,為替デリバティブの場合には,そのリスクが外貨預金よりもずっと高いのです。外貨預金であれば,いくら円高が進んでも預金残高がゼロになることはありません。1ドル120円が,1ドル80円に下がっても,価値が3分の2になるだけです。

ところが,為替デリバティブの場合には変動の幅が大きいため,ひどいときには価値がゼロになってしまいます。更に,「ノックアウト」「レシオ」などと呼ばれる特約が付いており,銀行や証券会社が絶対に損をしない,非常に巧妙な仕組みになっているのです。このような巧妙な仕組みは,デリバティブだけでなく,「仕組み債」や「仕組み預金」にも共通します。

 このデリバティブが大きな問題となった原因は,いわゆるリーマンショックにより,急激な円高が進んだためです。これを購入させられたのは,ほとんどが輸入業者です。輸入業者は,外国から仕入を行います。そのため,円安になると仕入れ価格が高くなってしまいます。当時は為替相場が1ドル120円程度でしたから,輸入業者は円安に悩まされていました。

そこで,銀行が「リスクヘッジのため」などと称して,為替デリバティブを売り込みました。輸入業者も,メインバンクの勧めであれば断るわけにいきません。ところが,リーマンショックがあり,急激に円高になってしまったため,当時購入した為替デリバティブの価値がゼロになってしまった,というわけです。

 もちろん,このような金融商品のリスクを十分に理解して買ったのであれば,問題はありません。しかし,ほとんどの場合に,十分な説明はなされていなかったようです。普段から付き合いのあるメインバンクの担当者に勧められて,よく分からずに購入してしまった輸入業者が少なくありませんでした。そのために数年前からADRや訴訟などが起こされるようになった,というわけです。

 ADRというのは,裁判外の紛争解決手続のことです。分かりやすく言えば,間に人を入れて行う話し合いですね。為替デリバティブの場合には,全国銀行協会(全銀協)に申し立てることになります。全銀協のあっせんでは,商品の適合性(金融商品取引の経験があったかどうか,余裕資金だったかどうかなど,目的に適合する商品であったかどうか)や担当者の説明内容(商品のリスクを十分に理解できる説明を行ったかどうか)などに問題がある場合には,少なくとも,一定割合の賠償を行うように勧めています。

このまま泣き寝入りすれば1円も返ってきませんが,ADRや訴訟を申し立てれば返金が認められる可能性がありますので,やってみる価値は十分にあります。

 このようなデリバティブを購入させられて損失を被ってしまったという個人や中小企業の経営者の方は,お気軽に弁護士にご相談ください。

(田岡)

2012年9月 3日 (月)

責任能力の難しさ

 責任能力の研修で,全国各地を飛び回っています。すでに岐阜,茨城,栃木,香川の各弁護士会にお招きいただき,「責任能力を争う裁判員裁判の弁護活動」というテーマで講演をさせていただきました。今後は東京のほか,鹿児島,愛媛,愛知に伺う予定になっています。これまで,責任能力をテーマにした研修はほとんどありませんでしたから,多くの弁護士に関心を持っていただけたことに驚いています。

 さて,これほどまで弁護士の関心が高まっている背景には,精神疾患を持っている方が犯罪を犯してしまった場合に,なかなか裁判員の理解が得られない,という問題があるように思われます。先日,大阪地方裁判所において,発達障害を持った被告人が同居していたお姉さんを殺害したケースで,検察官の求刑を上回る20年(有期懲役刑の上限です)の判決が言い渡され,各地の精神障害者の支援団体等から抗議の声明が出されました。

 私もこの判決には問題があると考えますが,同時に多くの市民が「精神疾患があるというだけで,刑が軽くなったり,無罪放免になるのはおかしいのでは」という素朴な疑問を持っておられることには向き合う必要があると感じます。近代刑法は責任主義に立脚しているからとか,わが国でも養老律令の時代から精神疾患を患う方は不処罰とされてきた,というだけでは,なかなか納得が得られなくなって来ているのでしょう。

 弁護人としては,ただ精神疾患があるから刑を軽くすべきであるとか,治療を受けさせるべきであると主張するのではなく,その根拠に遡って,裁判員も含めた「普通」の方々(何が「普通」かと言われそうですが,法律家でも,精神障害者の支援に関わる方でもない,という意味です。)に説明する必要があります。もし誤解があるのであれば,その精神疾患がどのような病気であり,どのような症状が出るのか,なぜそのような病気になるのか(遺伝的なものなのか,後天的なものなのか),そのような症状を抑えるにはどうすればよいのか,どうすれば再犯を防ぐことができるのかについて,正しい知識を提供する必要があります。そのためには,まずは弁護士自身がもっと彼らを知る必要があるでしょう。
 
 私たちは,東京都江戸川区にある東京ソテリアを定期的に訪問し,ゼミや勉強会などを行って来ました。精神疾患を患った方やそのご家族,それらの方々を支援する専門職と交流し,お互いにどのような連携が可能であるのかを探って来ました。その中で,同じ統合失調症と言っても様々な症状の方がいらっしゃること,必要な支援のあり方もそれぞれに異なること,しかし,必要な支援さえあれば社会の中で生活することは十分に可能だし,実際にそのように生活している方がたくさんいることを知りました。こうした日常的な連携の中から,「普通」の方々にも通じる言葉を紡ぎ出していければと思っています。

(田岡)

2012年9月 2日 (日)

セカンドオピニオン

 最近セカンドオピニオンとして意見を求められることが増えてきましたが、最近受けた依頼は時代の変化を感じさせられました。

これまでの相談者は、現在依頼している弁護士・法律事務所の対応に問題を感じたり既に関係が悪化した方がほとんどでした。その意味ではいわばやむを得ずにセカンドオピニオンという感じです。

しかし今回の依頼者は違っていました。既に信頼のおける法律事務所に事件依頼を行っているが、リスク回避のために並行してセカンドオピニオンの意見を聞くというスタンスなのです。これまでの企業にはなかった発想に感心しました。

確かに、これまでも、いろいろな会社の方から、他の解・他の可能性はないのかという相談を受けることはありました。その都度いろいろなアドバイスをして来ましたが、会社そのものが正面から他の意見も参考にしながら進めようという態度を示すのに接したのは初めてです。

リスク管理に優れた会社はセカンドオピニオンの使い方もうまいものだと依頼を受けながら感心しました。もちろん、それができる社内の組織体制があってのことですが。
これからは、重要な訴訟にセカンドオピニオンを付けることがごく普通になって行くのだと思います。

(櫻井)

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