精神疾患を患った方の労働相談
最近,精神疾患を患っておられる方からの相談が増えたように感じます。長年勤めてきた会社を解雇されたとか,1年契約を更新して10年以上働いて来たのに雇い止めにされたというご相談でも,その解雇や雇い止めの理由を伺っていくと,うつ病などの精神疾患が影響していることが少なくありません。背景には,パワーハラスメントであるとか,職場内での環境の悪化ということがあるようです。昨今の不景気を反映して,とくに中小企業の職場内での人間関係等が悪化しているということなのでしょうか。
このようなご相談を受けた場合,まず精神疾患が労働災害に当たるかどうかが問題となります。以前は,過労死,過労自殺のようなケースを除いては精神疾患が労働災害にあたるかどうかが裁判で争われる件数は多くはありませんでしたが,最近は,このような解雇や雇い止めのケースで,労働災害かどうかが争われることが増えました。もし労働災害と認定されれば,労災保険給付が受けられるだけでなく,いわゆる傷病解雇(労働基準法19条)として,解雇自体が許されません。これが,いわゆる私傷病であれば,就業規則により休職が認められることはあっても,休職期間が満了すれば自動的に退職ないし解雇となってしまいますので,大きな違いがあります。
精神疾患が労働災害に当たるかどうかについては,厚生労働省が基準を策定しています(平成23年12月26日付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」)。この基準では,業務による心理的負荷と,業務以外の心理的負荷,個体側要因を総合的に考慮して,認定することにしています。とくに,発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められることが必要です。そのため,配置転換や異動,長時間残業などのエピソードがあったかどうかが重要になって来ます。パワーハラスメントも,その内容しだいでは,この基準に当てはまることがあります。厚生労働省のホームページに,リーフレットが掲載されていますので,ご参考になさってください(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/090316.html)。
ただ,実際には労働災害と認定されることは多くありません。その場合でも,社会保険に加入していれば,傷病手当金が支給されます。傷病手当金の支給期間は最長1年6か月,受給額は標準報酬日額の3分の2です(ただし,上限があります。)。ときどき誤解されている方がいらっしゃいますが,失業保険の傷病手当とは別の制度であり,退職後でも1年6か月までは受給することができますので,健康保険組合や社会保険労務士に問い合わせてみてください。全国健康保険協会のホームページでも,紹介されています(http://www.kyoukaikenpo.or.jp/8,271,25.html)。失業保険も受給期間の延長を申請しておけば,傷病手当金がきれた後に受給することができます。
解雇,雇い止めをめぐる紛争は,今後もますます増えていくものと思われます。解雇や雇い止めの表向きの理由が業務の縮小や事業所の廃止(いわゆる整理解雇)であっても,同時にパワーハラスメントやセクシャルハラスメント,不当な配置転換や退職勧奨が背景にあることが少なくありません。そして,そのような方の多くが,同時にうつ病ないしうつ状態(適応障害など)と診断され,精神疾患を患っておられます。このような方は,弁護士に相談するにも大変な状況の方が多いかと思いますが,ご家族や周囲の方でお気づきになれた場合には弁護士にご相談いただければと思います。
(田岡)
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