死刑執行に異議あり
3月29日、東京、広島、福岡の3つの拘置所で死刑が執行されました。日弁連は早くも抗議の会長声明を発しましたが、私も今回の執行には憤りを禁じ得ません。
国は「死刑の在り方についての勉強会」を続けて来ましたが、小川法務大臣は議論が出尽くしたとしてこの勉強会を廃止しました。その報告書のまとめには、「死刑制度の存廃に関する主張については(中略)一概にどちらか一方が正しく、どちらか一方が誤っているとは言い難いものであるように思われる。」、「国民の間でさらに議論が深められることが望まれる。」と記載されています。
一概にどちらが正しいと言い難い問題で、議論が深められるべき問題だという確認さえされているのに、死刑を執行するのは、勉強会のまとめの趣旨に明らかに反します。
小川大臣は執行に際し、内閣府の調査で国民の85%が死刑を支持していると言いますが、これも二重の意味で誤りです。その理由の第1は、そもそも調査の仕方がまずいことです。
同調査は冒頭に「人殺しなどの凶悪犯罪は4,5年前と比べて増えていると思うか」という設問を設けています。これに対して73.9%の人が増えている、12.0%の人が変わらないと回答しています。減っていると答えた人は5.8%にすぎません。現実には、平成17年と22年の比較(平成18年版及び23年版犯罪白書により認知件数を比較)では、殺人が24%、強盗が33%も減少しているのです。ですから、現在の死刑の是否を問うならば、人殺しなどの凶悪犯罪が激減していることを正しく伝えてから行うべきです。ところが、回答者の94.2%は近年の凶悪犯罪の発生件数が著しく減少しているという動向について正しい認識を持たぬまま、続く質問で死刑の是非を回答しているのです。このような調査の結果は信頼性が低いと言わざるを得ません。
理由の第2は、85%が支持という評価です。この割合は、「どんな場合でも死刑を廃止しようという意見に賛成か」という問いに賛成の回答が16%だったことから、それ以外は死刑を支持しているという論法から導かれたものだと思われますが、別の質問に対して、重い罪を犯した人の場合でも,実際にはなるべく死刑にしない方がよいという意見に賛成している人が41.6%もいることを考えれば、全面的廃止論を支持する者以外は死刑制度の支持者だというのは我田引水が過ぎるというべきでしょう。また、上記の回答からは、死刑制度の存続と執行の是非を分けて考えている回答者が相当数いることも予想されます。従って、「85%が支持」との論拠は、その数値自体に信頼性が欠けるうえ、執行の根拠にすることの適否も疑問のあるものです。
私は、死刑は非人道的な刑罰だと考えています。また、国際社会で信頼と尊敬を集めている友好国の多くが歴史の過程で廃止してきた経緯からも、死刑制度は存続すべき合理性を失っていると考えています。遅ればせながらそのような議論をして行こうと言った矢先に死刑を執行する法務大臣の人権感覚のなさと姿勢の不誠実さに憤りを覚えます。
(櫻井)
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