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2011年4月24日 (日)

自分の子でない嫡出子と養育費

 今日は、去る3月18日に出された最高裁判例をご紹介します。

 XさんとY子さんの夫婦は平成3年に結婚しました。その後平成8年に長男A、平成10年に二男B、平成11年に三男Cが生まれましたが、実はBの父親はXさんではなく、Y子さんの不倫相手でした。Y子さんはB出産後間もなくBがXさんの子でないことを知りましたが、Xさんには隠していました。

 Xさんは、平成9年頃からY子さんにキャッシュカードを預け、その口座から生活費を支出することを許していました。また、平成11年頃からは一定額の生活費を渡すようになりましたが、その後もY子さんの要求に応じて平成12年から15年頃までほぼ毎月150万円程度の生活費を渡してきました。

 けれどもXさんとY子さんの夫婦関係は、平成16年頃Xさんの女性関係などが原因で破綻しました。その後裁判所はXさんからY子さんに対して婚姻費用として月額55万円を支払うよう命ずる審判がなされ、この審判は確定しました。

 ところが平成17年になってXさんはBが自分の子でないことを知りました。

 Xさんは親子関係不存在確認訴訟を起こしましたが、この訴えは却下され、確定してしまいました。

 夫が、「妻の産んだ子は自分の子ではない」として訴える訴訟は「嫡出否認の訴」という訴えによらなければならないのですが、この訴訟を起こせるのは子が生まれたことを知ってから1年以内に限られています。だからこそXさんは「嫡出否認の訴え」でなく「親子関係不存在確認」という方法の訴訟を起こしたのですが、裁判所は「嫡出否認」以外の方法を認めませんでした。

 Xさんは自分とBとが法的な親子であることを否定できないことになりました。

 XさんはY子さんに対して離婚訴訟を提起し、Y子さんもXさんに対して反訴の形で離婚訴訟を提起し、A、B、Cのそれぞれに対して20万円の養育費を求めました。Xさんは、自分の子であるA、Cはともかく、他の男性の子であるBの養育費を払う必要はないと争いました。裁判は1審2審では解決がつかず、最高裁に持ち込まれました。

 最高裁(第2小法廷)は次のように述べてXさんの主張を認めました。

 Y子さんはBが不倫相手の子だと知ったのにXさんに隠した結果、XさんにはBとの親子関係を否定する法的手段は残されていなかった。またXさんは婚姻期間中多額の生活費を支出し、Bを含む家族の生活費を負担してきた。これらを考えると、離婚後もBの養育費を負担させることはXさんに過大な負担を課することになる。他方、Y子さんは離婚により多額の財産分与を受けるから、離婚後のBの養育費をY子さんだけに負担させたとしても子の福祉に反するとは言えない。そうすると、Y子さんがXさんに対して養育費の請求をするのは権利の濫用にあたる。

 一般の方に覚えておいていただきたいポイントは、

①妻が浮気して出来た子でも、出生後1年以内に嫡出否認の訴えを起こさなければ、父親から「自分の子ではない」という訴訟は出来ない。DNA鑑定の結果父子関係が存在しないことが明白であっても結論は変りません。

②法的な親子関係がある以上、当然に扶養義務が課せられる。今回の判決もこの前提を崩すものではありません。自分の子でなければ養育費を支払わなくて良いと早合点すると失敗します。

③嫡出子が自分の子でないような場合、嫡出否認の訴えを起こせなかったのが妻に欺かれたためという事情があり、なおかつ相当期間十分な養育の負担を行い、且つその子が将来的にも生活に困らない状態にあるような場合には、これに加えて妻の側から養育費を請求するのは権利濫用である、というのがこの判例の趣旨です。

(櫻井光政)

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