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2010年9月

2010年9月 5日 (日)

ある和解

先日、亀井弁護士と担当したある裁判が和解で解決しました。

Aさんは帰宅途中、夜間道路工事のための荷下ろしをしているトラックの脇を誘導員の指示に従って通りかかった際、作業員のミスで照明用三脚を顔面にぶつけられ、あごを砕き、流動食以外摂取できない後遺障害を負いました。Aさんは工事業者を相手取って訴訟を起こしましたが、破産寸前の業者とはわずか数十万円で和解せざるを得ませんでした。

ところでAさんは傷害保険に入っていました。一つはあらゆる傷害について補償されるタイプ、もう一つは交通事故による傷害についてのみ補償されるタイプのものでした。保険会社はこの事故について、あらゆる傷害について補償されるタイプの保険のみ、満額の6%の和解金を支払いました。この結果に納得の行かないAさんは桜丘法律事務所を訪ねました。

私はAさんの事故を「交通事故」だと判断しました。停車中の自動車の荷下ろし中の積み荷がぶつかっただけなのに何故?と思われるかも知れませんが、私は昭和63年の次のような最高裁判例に基づいて立論しました。
「枕木が装置されている荷台は、本件車両の固有の装置というに妨げなく、また、本件荷降ろし作業は、直接的にはフォークリフトを用いてされたものであるにせよ、併せて右荷台をその目的に従って使用することによって行われたものというべきであるから、本件事故は、本件車両を「当該装置の用い方に従い用いること」によって生じたものということができる。」

保険会社は当然のことながら猛反発しました。63年判例は特殊な事例に関する判例であって、荷下ろし一般に適用できないというのです。同旨の下級審判例もありました。これに対し、私は次のように考えて反論しました。
最高裁が荷台の特殊性を強調したのは、当該事件におけるトラックの荷下ろしの特殊性に鑑みてのことである。積み荷をフォークリフトで反対側に突き落とすという荷下ろしの方法は普通のやり方すなわち荷台の利用の仕方に則ったものではない。それ故通常なら「当該装置の用い方に従い用いた」とは言えない。しかし、フォークリフト作業を前提とした枕木が備わっていれば、その荷下ろしの方法は、そのトラックにとっては「用い方に従って用いた」ことになる。最高裁が言いたかったのはそのことなのだ。

訴訟は3年に及びましたが、東京地裁交通部はAさんの主張をほぼ全面的に認める和解案を提示し、保険会社はこれを飲みました。本件が交通事故だということは、判例を見つけられなければここまで強く主張できなかったでしょう。また、判例を見つけても、その射程を正確に理解できなければ戦いきれなかったでしょう。さらに、理論的に優位に立っても丁寧な被害立証が出来なければ高額な保険金の支払いは得られなかったでしょう。訴訟の実務というのは奥が深く、興味が尽きないものです。

(櫻井)

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