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2010年5月16日 (日)

最高裁ガチンコ対決

亀井です。

「控訴を棄却する」 裁判長が読み上げた瞬間、驚きと失望の両方が入り混じった溜息が法廷に洩れました。

 5月13日、このホームページコラム「最高裁大法廷判決の壁~猿払事件~」で紹介した国家公務員法違反で起訴された世田谷事件の判決主文が読み上げられた瞬間です。

 東京高等裁判所第6刑事部出田部長は、理由の冒頭部分で「すべてについて、猿払事件判決と見解を同じくするものである。」として、猿払最高裁判決を完全に踏襲するということを高らかに(!)宣言しました。

 そして、当該政治活動をした公務員を処罰するにあたって、行政の中立性に対する国民の信頼が害されたという現実の危険発生の有無を考慮する必要はないと明言したのです。

 つまり、公務員という身分を有する人が国家公務員法が委任する人事院規則所定の行為を形式的に行いさえすれば、刑事処罰を与えてかまわないし、そのように解釈しても何ら憲法に反しないというのです。

 これは先日紹介した堀越事件東京高等裁判所第5刑事部判決と全く異なる内容です。同判決は「ある程度の危険が認められることを、その成立要件とすべき」とし、そのように解釈してはじめて憲法上の疑義がなくなるとしていました。また、郵政の民営化、時代の進展、経済的、社会的状況の変革、国際基準についても踏み込んだ言及をしていました。

 2つの事件は、起訴された人、政治活動(ビラ配布)の日時、公務員としての職務内容が確かに違います。しかし、国家公務員法110条1項及び102条1項並びに人事院規則14条の7の解釈、適用範囲、憲法適合性こそが唯一といってもよい争点なので裁判所が答えるべき点はほぼ共通します。

 それにも関らず、同じ東京高等裁判所内で、これだけ正反対の結論が出てしまうというのは滅多にあることではありません。
 
 2つの判決の違いのポイントは「行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼」を確保するには、全ての公務員のほぼ全ての政治活動を禁止する必要があるかないかということです。猿払事件最高裁判決も今回下された東京高等裁判所第6刑事部判決も政治活動を許容したことによる累積的波及的効果を強調します。つまり、被告人自身の行為による法益侵害ではなく、将来、他人によって引き起こされるかもしれないとても抽象的な法益侵害を根拠に処罰するのです。これは行為処罰の原則にも反する危険な考え方ですがそれを正面から認めています。

 ただ、2つの判決文を詳細に読んでいくと、より根本的なものとしては、「表現の自由」に対する価値の重き、激しいイデオロギー対立をもはや過去のものとみるかどうかという評価、さらには裁判所の役割をどう考えるかという司法観の違いがあるように感じます。

 有罪とした第6刑事部はこれら全てについて、無罪とした第5刑事部とは「違うよ」ということを必死でアピールしているように思えてなりません。

 さらには現在裁判所内に2つの流れがあることが浮き彫りになってきます。誤解を恐れず言うとすれば、時代の変化に応えていこうとする司法改革派とそういった流れにむしろ警鐘を鳴らしたいという秩序維持派ということになるでしょうか。

 これら東京高等裁判所での2つの判決は、ひとつが検察官上告、ひとつが弁護側上告ということでほぼ同時期に最高裁に上がることになりました。

 検察官と弁護人という対決はもとより、2つの東京高等裁判所判決のどちらが支持されるのかという裁判所内部の対決でもあります。

 最高裁判所は大法廷に回付(裁判官全15名で判断する)して、このガチンコ対決の帰結を国民にしっかりと説明する義務があります。

 1年後になるか2年後になるか分かりませんが、ぜひ注目していて下さい。

日弁連声明http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/100514.html
 
 

 
 

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