« 2010年4月 | トップページ | 2010年9月 »

2010年5月

2010年5月16日 (日)

最高裁ガチンコ対決

亀井です。

「控訴を棄却する」 裁判長が読み上げた瞬間、驚きと失望の両方が入り混じった溜息が法廷に洩れました。

 5月13日、このホームページコラム「最高裁大法廷判決の壁~猿払事件~」で紹介した国家公務員法違反で起訴された世田谷事件の判決主文が読み上げられた瞬間です。

 東京高等裁判所第6刑事部出田部長は、理由の冒頭部分で「すべてについて、猿払事件判決と見解を同じくするものである。」として、猿払最高裁判決を完全に踏襲するということを高らかに(!)宣言しました。

 そして、当該政治活動をした公務員を処罰するにあたって、行政の中立性に対する国民の信頼が害されたという現実の危険発生の有無を考慮する必要はないと明言したのです。

 つまり、公務員という身分を有する人が国家公務員法が委任する人事院規則所定の行為を形式的に行いさえすれば、刑事処罰を与えてかまわないし、そのように解釈しても何ら憲法に反しないというのです。

 これは先日紹介した堀越事件東京高等裁判所第5刑事部判決と全く異なる内容です。同判決は「ある程度の危険が認められることを、その成立要件とすべき」とし、そのように解釈してはじめて憲法上の疑義がなくなるとしていました。また、郵政の民営化、時代の進展、経済的、社会的状況の変革、国際基準についても踏み込んだ言及をしていました。

 2つの事件は、起訴された人、政治活動(ビラ配布)の日時、公務員としての職務内容が確かに違います。しかし、国家公務員法110条1項及び102条1項並びに人事院規則14条の7の解釈、適用範囲、憲法適合性こそが唯一といってもよい争点なので裁判所が答えるべき点はほぼ共通します。

 それにも関らず、同じ東京高等裁判所内で、これだけ正反対の結論が出てしまうというのは滅多にあることではありません。
 
 2つの判決の違いのポイントは「行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼」を確保するには、全ての公務員のほぼ全ての政治活動を禁止する必要があるかないかということです。猿払事件最高裁判決も今回下された東京高等裁判所第6刑事部判決も政治活動を許容したことによる累積的波及的効果を強調します。つまり、被告人自身の行為による法益侵害ではなく、将来、他人によって引き起こされるかもしれないとても抽象的な法益侵害を根拠に処罰するのです。これは行為処罰の原則にも反する危険な考え方ですがそれを正面から認めています。

 ただ、2つの判決文を詳細に読んでいくと、より根本的なものとしては、「表現の自由」に対する価値の重き、激しいイデオロギー対立をもはや過去のものとみるかどうかという評価、さらには裁判所の役割をどう考えるかという司法観の違いがあるように感じます。

 有罪とした第6刑事部はこれら全てについて、無罪とした第5刑事部とは「違うよ」ということを必死でアピールしているように思えてなりません。

 さらには現在裁判所内に2つの流れがあることが浮き彫りになってきます。誤解を恐れず言うとすれば、時代の変化に応えていこうとする司法改革派とそういった流れにむしろ警鐘を鳴らしたいという秩序維持派ということになるでしょうか。

 これら東京高等裁判所での2つの判決は、ひとつが検察官上告、ひとつが弁護側上告ということでほぼ同時期に最高裁に上がることになりました。

 検察官と弁護人という対決はもとより、2つの東京高等裁判所判決のどちらが支持されるのかという裁判所内部の対決でもあります。

 最高裁判所は大法廷に回付(裁判官全15名で判断する)して、このガチンコ対決の帰結を国民にしっかりと説明する義務があります。

 1年後になるか2年後になるか分かりませんが、ぜひ注目していて下さい。

日弁連声明http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/100514.html
 
 

 
 

2010年5月 6日 (木)

詐欺商法

櫻井です。

悪質な詐欺商法が後を絶ちません。先般も電話で相談を受けました。何でも競馬必勝法という情報があるそうです。その競馬必勝法が高い値で売れるということで、ある会社が「必勝法」の販売店を募っているのだそうです。そして、その販売店になるためには会社に70万円ほど支払って販売権を購入しなければならないのだそうです。相談者は、セールストークに負けて販売権の購入契約書にサインをしてしまったが撤回したいがペナルティは発生しないかと心配していました。

賢明な方にはこの商法が極めて悪質な詐欺であることがおわかりでしょう。その理由は次の通りです。

① そもそも競馬に「必勝法」はありません。偶然が支配するから賭が成立するのであって、必ず勝てるルールはありません。ときどき「的中」ということを聞きますが、事実だとしても、いくつもの予想の中でたまたま「的中」があるのも偶然のたまものに過ぎません。ですから、「必勝法」を法外な値段-多くは20万から30万円以上-で売りつけること自体が詐欺的な商法です。

② さらにこの商法のうまいところは販売店をカモにしているところです。騙されるのは最終的な消費者だけでなく、手っ取り早く金になるビジネスを起こしたいと思っている販売店志望の者をもカモにしている点です。インチキ商品の売り手を募集して販売権名目で70万円もの金を巻き上げるのですから、これも詐欺です。

③ 極めつけは、騙されたかも知れないと思って翻意しても、違約金名目で金を脅し取る用意までされているところです。70万円を騙し取られそうになって直前に気づいた販売店志望者は、違約金として20万円請求されたときに、「これで済んだだけでも幸いだ」という気分になって応じてしまうことが多いようです。

 詐欺集団はさまざまな手段であなたを狙っています。投資、起業、資格取得、内職など、その種類も多様です。どうか、見知らぬ相手からの勧誘には慎重に対応して下さい。また、詐欺師は即決を迫るのが手です。熟慮されてぼろが出る前に金を騙し取ってしまいたいのです。ですから、急かされたときは毅然と断るようにして下さい。見知らぬ人から急なチャンスが飛び込んでくることはありません。 

2010年5月 5日 (水)

訴追も国民目線~検察審査会~

亀井です。

検察審査会により某大物政治家が起訴相当との判断を下され,急に検察審査会というものがクローズアップされています。

犯罪が発生し,犯人が捕まった時でもそれを刑事裁判にかけるかどうか,つまり「起訴」するかどうかの権限は本来検察官のみにあります。検察審査会は,検察官のこのような不起訴の判断が妥当かどうか判断するための機関です。犯罪被害者等から審査申し立てがあった場合に,11名の審査員による会議で審査がなされます。審査員の任期は6ヶ月で大体1ヶ月に,1,2回の会議への出席が求められているようです。それにより,起訴が相当又は不起訴が不当の議決がなされた場合には,検察庁に通知がなされ,検察官が再度,起訴するかどうかについて検討することになります。

ただ,検察官は,検察審査会の議決を参考にしつつも,これに拘束されるものではなく,再度不起訴にすることもできます。実は今まで,市民が起訴不起訴に関われるのはここまででした。

しかし,改正検察法施行により,検察官が検察審査会の議決に反して不起訴にした場合でも再度,検察審査会が起訴するべきであるという議決をした場合には,自動的に「起訴」されることになりました。つまり,市民が起訴するかしないかについて意見を示すだけではなく,一定の起訴権限をも持つようになったのです。

そして,裁判所は検察官に代わって,裁判で主張立証活動を行う弁護士を指定します。起訴状も弁護士が作成します。通常は加害者側の弁護をする立場の弁護士が,この場合だけは加害者を追及する立場に立つわけです。

実はこの改正検察審査会法が施行された2009年5月21日は裁判員裁判法施行の日でもありました。国民目線の裁判が訴追レベルでも同時に始まっていたのです。

私達弁護士の活動も国民の厳しい目をよりいっそう意識していかなければなりません。

最高裁大法廷判決の壁~猿払事件~

亀井です。

国家公務員が休日に私服で職場とは全く関係のない場所で政治的ビラを配布したら逮捕されたという事実を知っているでしょうか。実は,現行の国家公務員法,人事院規則では,これだけで立派な犯罪として処罰されることになっています。

1970年代,当該法律,規則が表現の自由を保障した憲法21条に反するのではないかということが激しく裁判で争われ,最高裁でも意見が分かれました。司法試験受験生であれば誰もが真っ先に学ぶ有名な「猿払事件」です。

猿払(さるふつ)というのは北海道宗谷郡にある「猿払村」のことです。私が赴任していた紋別から北に100キロ余り,ホタテの有名なとても小さな村です。40年以上前,村の郵便局員が選挙用ポスターを貼ったことで刑事罰に問われ,その裁判の中で国家公務員法,人事院規則の合憲性が問題になったのです。

この事件で,当時の最高裁大法廷多数意見は行政の中立的運営に対する国民の信頼などを理由として,規制も合理的で必要やむをえない制限であり,合憲であるとしました。
 そのため,この法律と規則は建前上生き続け(実際には30年以上起訴されることはなく無名化していたのですが)冒頭に述べたような事件が2004年(堀越事件),2005年(世田谷事件)に起きてしまいました。

ひとりは社会保険事務所職員,もうひとりは厚生労働省職員ですが,どちらも職務とは全く無関係にビラ配布をしていただけでした。逮捕などされなければ彼らが国家公務員であることなど誰も知る由がありませんでした。勿論,公務の中立性が実際に侵害されたとか,彼らが政治活動をすることで国民の信頼が害されたということもありません。仕事は仕事として,普通に真面目に公務を遂行していたのですから当然です。仕事も事務的なものであり政治的信条を及ぼす余地もありませんでした。それにも関わらず,プライベートな時間にビラ配布をしただけで被告人として訴追されてしまったのです。理由は国家公務員だったからです。
東京地裁は,2006年6月29日に堀越事件について罰金10万円執行猶予2年の有罪判決を,2008年9月19日に世田谷事件について罰金10万円の有罪判決をそれぞれの部で下しました。

何故,このように明らかにおかしな事件で東京地裁はこぞって有罪判決を下したのか,また合憲性をあくまでも維持しようとしたのか。それは,紛れもなく36年も前の猿払事件最高裁大法廷判決が存在するからです。下級審裁判官にとっては,過去とはいえ,最高裁,しかも大法廷(最高裁裁判官15名全員で構成。通常は5名で構成される小法廷。重要な事件だけが大法廷判決となります。)が合憲だと言っている以上,それと異なった判断をするということは裁判官生命を揺るがしかねないことなのです。少なくともそう思いこんでいる裁判官はとても多いはずです。それくらい最高裁大法廷判決というのは重みのある,威力のある「先例」なのです。36年経っても,この間圧倒的に多くの憲法学者が判決を批判し続けていてもなお,それをうち破るのは並大抵のことではないでしょう。

あれっ,裁判官の独立は?良心は?と思うかもしれません。その通り,建前からすれば過去の最高裁判例に追従しなければならない義務はありません。ただ,理由はご想像にお任せしますが,残念ながら裁判官の独立を貫くことの難しさを一番痛感しているのは裁判官自身かもしれません。その点,言いたいことを言える弁護士とは全く違うといえます。

私も弁護人として参加している世田谷事件一審の東京地裁は自らが「下級審」である以上,最高裁判決を「尊重することが,その採るべき基本的な立場である」と述べ,本当に情けないくらい猿払事件最高裁大法廷判決をなぞる判決を下しました。そこには裁判官自らの良心も正義もありませんでした。

しかし,つい最近の2010年3月29日,堀越事件の方で,同じく下級審でもある東京高等裁判所刑事第5部は,何と第一審判決を破棄し,当該国家公務員法,人事院規則を適用することの違憲性に言及し,無罪を言い渡しました。蓋を開けてみれば,しごく常識的な当たり前の理屈と結論でした。多くのマスコミも,時代に沿う当然の判断であるなどとして概ね良い評価を与えていました。この判決は猿払事件最高裁大法廷判決と明らかに判断を異にするものです。裁判体の勇気には敬意を表したくなります。

もうすぐ5月13日,今度は世田谷事件の控訴審判決が東京高等裁判所刑事第6部で下されます。下級審裁判所の「立場」か,裁判官の「良心」か。36年前の最高裁大法廷判決の壁を破ってくれることを期待したいものです。

「引っ越し」と新たな一歩

亀井です。

ゴールデンウィーク,我々の事務所は引っ越し移転しました。
数十メートルの移動とはいえ,全ての記録・備品をいったんは梱包し,移動の準備をするのはなかなか大変な作業でした。

私自身は弁護士になって丸8年になりますが,その間に蓄積された記録や資料は膨大なものです。
中でも長く関わった事件などは思い出深く,もう必要ないものと思っても裁判調書や参考資料などは容易に捨てられるものではありません。
過去の記録を見ながら,この事件の解決はよかったなとか,この依頼者の方は今どうされているだろうかなどと思いを馳せ,整理作業する手を止めてしまうことも少なくありませんでした。

多くの依頼者にとって弁護士と関わるというのは一生にそう滅多にない出来事のはずです。その方にとって「弁護士」というもののイメージができあがったのだとしたら良くも悪くもその時に関わった弁護士が与えたものでしょう。そう思うとどのようなイメージを今持っているだろうか,法律相談しか受けていない方であっても気になるものです。

私は北海道紋別の公設事務所から桜丘法律事務所に戻ってきて早5年になります。紋別は弁護士が他に1人もいないという究極の弁護士過疎地域です。当時は常駐していること自体に第一次的な意義がありました。
今は東京にいて,そのころとはまた違う責任感,そして求められるサービスの高さというものを日々意識しています。

桜丘は,来年にはさらに4名程のメンバーが増える予定です。今回の引っ越しは増員に備えての大幅な面積拡張目的です。
ただ,大きくなるのは面積だけではありません。私達はよりいっそうの質の拡充に向けて,新しい一歩を踏み出しています。この事務所と出会ったことで「弁護士」のいいイメージを持って頂けるように。

どうか新しい桜丘法律事務所を宜しくお願いします。

« 2010年4月 | トップページ | 2010年9月 »

2017年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ