2018年11月21日 (水)

続・医学部入試問題

以前、東京医科大学が女子の合格者を一定以下に抑えるために、こっそり一律減点していた件で投稿しましたが、11月17日付朝日新聞朝刊で、またしても非常に衝撃を受ける内容の記事が載りました。

この記事は、医学部の入試における不正を受け、全国医学部長病院長会議で医学部入試に関する規範を公表したというものです。ところがこの規範、女性を理由に差別することを禁じ、浪人年数や年齢制限も一応不適切としたものの、内部進学、卒業生の親類、地域枠は取り扱いの差を良しとしています。

 内部進学や、地域枠については、理解しないでもありません。一律教育の必要性や、田舎等特定地域で勤務する医師を養成したいという意向の現れでしょう。しかし、卒業生の親類が何故、どういう理由で取り扱いの差を許されたのでしょうか。それはまさしく、これまで問題とされてきた「裏口入学」に類するものではないでしょうか。

 新聞の記事によれば、これを許したのは「親が医療人であれば医師になるのをやめにくく愛校心が強い」からだそうです。親が医師なら子も医師にならなければならないなんて、憲法の定める職業選択の自由はどこに行ったのかと思います。親が引退するときに子が医師ではないなら、部下に引き継ぐなり廃業するなりすればいいだけの話ですし、能力のない二世医師に診られたい患者などいません。また、愛校心の強さが何故その学校への入学の是非を決めるのかも理解不能です。受験制度は、いくら愛校心が強くても能力がなければ入学を認めない、そのためにあるもののはずです。愛校心が強ければ寄付金が期待できるからでしょうか。金で枠を買う、それこそを裏口入学と呼び、これまで批判されてきたことのはずなのに、今回、部長院長会議はこれを公然認める規範を出してきたということなのです。

 女性差別が許されないのは、人は性別を選んで生まれて来られないからです。この観点からすれば、内部進学か外部進学かは選べますし、浪人年数の差についても1年目の挑戦権は誰にでも平等にあったわけですから、その機会をものにできるだけの能力があったかどうかで差を設けることは理解できなくはありません。しかし、医師の家系に生まれるかどうかを人は選んで生まれて来ることができないのです。家柄、門閥主義は、既得権益を保護したいという現在の医学部上層部のエゴでしかないと思います。

(石丸 文佳)

2018年11月 1日 (木)

11月,12月の神山ゼミのお知らせ

神山ゼミを以下の要領で行います。

【11月】
日時:11月14日(水)午後6時から午後8時頃まで
場所:伊藤塾東京校203教室
http://www.itojuku.co.jp/keitai/tokyo/access/index.html
終了後,懇親会を行います。
【12月】
日時:12月14日(金)午後6時から午後8時頃まで
場所:伊藤塾東京校203教室
http://www.itojuku.co.jp/keitai/tokyo/access/index.html
終了後,懇親会を行います。
【備考】
法曹,修習生,学生に開かれた刑事弁護実務に関するゼミです。 刑事弁護を専門にする神山啓史弁護士を中心に,現在進行形の事件の報告と議論を通して刑事弁護技術やスピリッツを磨いていきます。
特に,実務家の方からの,現在受任している事件の持込相談を歓迎いたします。
方針の相談や,冒頭陳述・弁論案の批評等,弁護活動にお役立ていただければと思います。
なお,進行予定を立てる都合上,受任事件の持込相談がある場合には,参加連絡の際にその旨お伝えください。
参加を希望される方は予めメールにて,下記の事項を澤田若菜(sawada@sakuragaoka.gr.jp)までご連絡下さるようお願いします。
※スパム対策として,@を全角にしています。半角の@に変換して送信してください。
[件名]11月の神山ゼミ(12月の神山ゼミ)
[内容]
・氏名:
・メールアドレス:
・懇親会への出欠:
・持込相談の事件がある場合にはその旨
皆様のご参加をお待ちしています。

2018年10月18日 (木)

面前虐待

あまり聞きなれない言葉ですが、児童相談所で「面前虐待」を理由に保護されるケースが増えていて、良くご相談を受けます。

 面前虐待とは、子どもの面前で父親と母親が大喧嘩をすることが子どもにとって精神的な虐待に当たるので、児童相談所に保護される理由になるというものです。

喧嘩をするほど仲が良いなどというのは昔の話のようです。もともと他人同士なのですから、意見が違うことは仕方がありませんが、相手の人格非難や、無理矢理自分の言うことを通そうとすると、激しい言い争いになり、それを子供の前で見せてしまうと、子どもが恐怖心を抱いたり、自分が悪かったのではないかと罪悪感を持ったり、怒号や、罵り合いがまた起こるのではないかというトラウマに捉われるということが分かって来ています。

たかが夫婦喧嘩だと大人は思うかも知れませんが、子どもにとって、目の前で大声で叫ばれる、母親が殴られる、包丁を片方が持ち出す、どれも大きな恐怖です。大喧嘩の果てに警察を呼んだりすると、警察が児童の面前虐待であるとして児童相談所に通報することになっています。

 そして度重なると児童相談所は、この環境に子供を置いておくことは出来ないと考えて児童施設に保護する手続きを開始します。

 その段階で相談に見える方は虐待という意識がありません。子供を虐めたわけではないのに相談所は訳も言わずに子供を連れて行った、と言います。

 弁護士は、子どもを返してくれない、会わせてもくれない、という不満をお聞きすることになります。確かに説明しない相談所もどうかと思うのですが、この場合、何が問題で、返してくれないのかを、しっかり把握することが大事であり、弁護士であれば、児童相談所に話を聞いてその理由をご説明することが可能です。

 一般的には、児童相談所は、子どもを安心して返せる環境があるかどうかを重視して考えています。夫婦のどちらが悪いとか、夫婦喧嘩の原因は何かというご両親の訴えを一応は聞きますが、それを判断したり裁定したりすることはいたしません。夫婦が今後、子どもの前でひどい喧嘩をしないと安心出来て初めて子どもを返すことを考える方向に向かいます。

 そのことを理解しないと、いつまでも子どもを返して貰えないことになります。こういうケースでは、弁護士が役に立つことがあると感じております。

(弁護士 神山 昌子)

2018年10月16日 (火)

再掲-流行に敏感な詐欺師たち

流行に敏感な詐欺師たち

 

 さてもさて,詐欺というのは流行に敏感なものです。聞いた者が,「ああ,あれね。」と思うネタをうまくぶつけてきます。

 今回の詐欺ネタはハラールと原発除染です。

 詐欺師たちは目を付けた資産家・企業のところに「良い投資話」を持ち掛けます。その1つがハラール。イスラム教で合法なものをハラールと言いますが,最近注目を浴びているのは食品のハラール認証です。食品についても戒律に厳しいイスラムの人たちが安心して口にできるのが,日本ハラール協会の認証を受けた食品なのです。最近話題になることが多くなりました。

 ここに目を付けて,ハラール認証を受けた飲料水の販売を持ちかけます。小分けする場所の提供を求めることもあります。実在する宗教法人の役員の肩書の名刺を示すなど,小道具もそろっています。

2つ目が除染です。除染が本格化する中で,従業員のための宿舎が不足しているのだというのです。1室1日9万円が入るので,320戸建てれば毎月2880万円が入る。建築費は6億円。40カ月で13億円になるから元はすぐに取れる,などというものです。

いずれもいかにもありそうな話ですが,全くのでたらめで,実体のない話です。間違って資金提供などしたら二度と帰って来ません。そして,迷惑なことには,そのような詐欺話に乗っている間に,あなたあるいはあなたの会社が既にその事業に参加しているかのように他の「カモ」たちに言いふらされているのです。

ちなみに私が相談を受けたものは,「モジュールキュービック株式会社」とか,「株式会社ケインズ」などの名前で活動していました。皆さんはくれぐれもご用心ください。

2018年10月 3日 (水)

非弁行為を行うネット削除業者にご注意ください

 近年インターネットの誹謗中傷の被害が増えていますが、その一方でインターネットの投稿・記事の削除請求を代行する業者も存在しています。

 しかしながら、昨年2月に東京地方裁判所は、ネット削除業者の行った「削除代行」は弁護士以外に行うことが法律上禁じられている「非弁行為」に該当することから、依頼者との間の契約は無効となるとした上、ネット削除業者に対して依頼者に代金全額の返還を命ずる判決を下しました(平成29年2月20日東京地裁判決 判例タイムズ1451号237頁。なおこの判決は確定しています)。

 弁護士法72条では、弁護士でないものが報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うこと(非弁行為)を禁止しています。そしてこれに違反した場合には弁護士法77条3号により犯罪行為をしたものとして2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられることとなっています。

 法律上非弁行為が禁止されているのは、法律上の専門知識が担保されていない非資格者が法律問題を扱うことにより、不適切な処理がなされ関係者が被害を受ける危険があるとともに、紛争自体さらに複雑化をしてしまうことがあるからです。私が地方に赴任していた際に取り扱った事件でも、相談に来る前に弁護士資格を有さない者が法律紛争を取り扱ったために紛争が深化してしまっていたケースは多々ありました。そのような事態を防ぐため、法律は厳しい罰則をもって非弁行為を禁じているのです。

 上記裁判において被告のネット削除業者は、ネット記事などの削除代行はウェブサイトに対して情報を提供して削除を依頼するという単純かつ画一的な行為であり、専門的知識も不要であるから、法律事件に関する法律事務にはあたらないという主張をしていました。しかし裁判所は、削除依頼は投稿者の権利を行使することによって、ウェブサイト運営者の表現の自由と対立しながらも記事の削除を行い投稿者の権利を守るという効果をもたらすものであるとして、被告のネット削除業者の言い分を全面的に否定しました。

 この判決以降、ネット削除業者も表立って自ら削除を行うということを宣伝することは少なくなってきたように思われますが、中には専門家を紹介するなどといってみたり、専門家の名前を借りて削除を行うなどという業者もいますので注意が必要です。上記裁判の被告のネット削除業者も、依頼者に対して難易度の高いものはパートナーの行政書士において削除申請を行わせるなどといっていたようです(なお行政書士も報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことは禁じられております)。

 非弁行為を行うネット削除業者に対して依頼を行うことは自ら不利益を被る可能性があるばかりではなく、非弁行為という犯罪に加担することにもなりますので絶対にしてはなりません。ネット上の誹謗中傷の被害にあった場合には専門家である弁護士に直接相談して、説明を受けたうえ納得のいくやり方で依頼するのが良いでしょう。 

(弁護士 大窪 和久)

2018年9月28日 (金)

遺言の作成・保管方法が変わる!

遺言作成するなら公正証書遺言にするべき!と聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。弁護士としてもそのようにアドバイスをすることがほとんどです。

理由としては、自筆証書遺言だと紛失の恐れがあったり、実際に誰がどのような状況で作成したかが不明確で有効性について疑義がもたれたりするリスクがあるかららです。また、死亡後に相続人らが家庭裁判所で検認の手続きをする必要もあります。

確かに公証人の前で本人が口述をして作成し、公証役場で保管もしてくれる公正証書遺言は自筆証書遺言に比べれば安心です。

しかし、一方で公正証書遺言は、公証役場に手数料を支払うこと、証人が必要となること、公証人との間で作成日や作成場所(公証役場又は自宅など)について調整する必要があることなど仰々しいところもあり、費用や手間の点でやや難点があります。

 そういうわけで、いざとなるとなかなか公正証書遺言作成に踏み切れず、結果的に相続について意思を伝えることができないままに亡くなってしまう方が多くいるようです。

 それは本人にとっても親族にとってもよいことではありません。

 もう少しライトにかつ確実に遺言を作成・保管できないものか・・・わたしもご相談に関わる中でよく思案していたことです。

 この点に関し、最近、重要な法律改正がありました。

 

<もう全文自筆でなくていい>

自筆証書遺言は偽装を防ぐため、全文と日付を必ず本人が書き、署名・捺印することなどが民法で定められています。また、財産の一覧を記した財産目録も自筆する必要がありました。ただ、資産のすべてを正確に記載するにはかなりの労力を要し、もし誤字があれば、その部分が無効になる可能性もあるというリスクもありました。

この点に関して、平成30年7月6日に成立した民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成31年1月13日から施行)が成立しました。

これにより、不動産の地番や面積、預貯金の口座番号など、財産を特定する記載については自筆でなくてもよく、パソコンなどで作成した財産目録や登記事項証明書等を添付し、その目録全頁に遺言者が署名・捺印すれば有効となります。

とはいえ、要件を本当に充たしているか等は弁護士に確認してもらうことをお勧めします。

<法務局で保管できる>

自筆証書遺言の保管についても、平成30年7月に法務局における遺言書の保管等に関する法律が成立しました(施行は2年以内)。

当該法律により、法務局において自筆証書遺言を保管してもらえることになりました。

具体的には、遺言者が法務省で定める様式(別途定めるとのこと)で作成した封をしていない自筆証書遺言を遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局の遺言保管所に自ら出頭して申請をします。

 保管の申請がされた遺言書については,遺言書保管所の保管官が,遺言書保管所の施設内において原本を保管するとともに,その画像情報等の遺言書に係る情報を管理することとなります。

 遺言者は,保管されている遺言書について,その閲覧を請求することができ,また,遺言書の保管の申請を撤回することができます。保管の申請が撤回されると,遺言書保管官は,遺言者に遺言書を返還するとともに遺言書に係る情報を消去します。

遺言者の生存中は,遺言者以外の方は,遺言書の閲覧等を行うことはできませんが、死亡後は、自己(請求者)が相続人,受遺者等となっている遺言書(関係遺言書)が遺言書保管所に保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます。遺言者の相続人,受遺者等は,遺言者の死亡後,遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求及び遺言書原本の閲覧請求をすることができます。

遺言書保管官は,遺言書情報証明書を交付し又は相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは,速やかに,当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人,受遺者及び遺言執行者に通知します。

そしてこの場合は検認手続きも不要になります。

手数料も公正証書で作成する場合には相続財産額に応じて負担することになりますが(数万円~10万円以上になることもあります)、法務局での保管手数料は一律でこれに比べれば負担は軽くなるはずです。

このように各法律が施行された暁には、必ず「遺言は公正証書で!」というべきケースばかりではなくなりますね。

遺言作成の選択肢が広がりつつある現在、改めて作成の検討をされてみてはいかがでしょうか。

(弁護士 亀井 真紀)

2018年9月11日 (火)

72期修習予定者向け事務所説明会のお知らせ

司法試験合格者の皆さん,おめでとうございます。

桜丘法律事務所では,下記要領にて72期修習予定者に対する事務所説明会を行います。

当事務所は,日弁連のひまわり基金公設事務所又は法テラスのスタッフ弁護士として地方で勤務する新人弁護士の養成を続けています。弁護士過疎解消をはじめ,公益的な弁護士業務に幅広く関心のある方のご参加をお待ちしています。

とりわけ当事務所に入所を希望されている方にはぜひおいで頂いて事務所の雰囲気を知って頂きたいと考えています。なお,当事務所の72期の採用予定は1名です。

当日は,東電OL殺人事件主任弁護人であり,刑事専門弁護士である神山啓史弁護士による刑事弁護講演も予定されています。刑事事件に興味のある方も是非ご参加下さい。

準備の都合上,各回先着30名とさせて頂きますのでご了承下さい。

 

【日時・場所】

第1回 平成30年10月5日(金)18:00~20:00頃まで

    @伊藤塾本館の202教室(東京都渋谷区桜丘町17-5)

第2回 平成30年10月19日(金)18:00~20:00頃まで

    @伊藤塾本館の202教室(東京都渋谷区桜丘町17-6)

【説明会内容】

第1部 約60分

桜丘法律事務所の紹介   櫻井光政所長

第2部 約60分

刑事弁護講演         神山啓史弁護士

終了後,事務所見学と懇親会を予定しています(参加自由)。

【申し込み方法】
参加希望者は,件名を「事務所説明会参加希望」として,

①名前

②メールアドレス

③参加希望日

④懇親会参加希望の有無

を明記の上,澤田(sawadasakuragaoka.gr.jp)宛にメールにてお申込み下さい。

※スパム防止のため@を大文字にしています。小文字に変換して送信して下さい。
なお,配布物の準備の都合上,説明会参加のご連絡は開催の3日までに頂けるようお願い申し上げます。

 

〒150-0031 東京都渋谷区桜丘町17-6    

渋谷協栄ビル7階 桜丘法律事務所

電話 03-3780-0991

http://www.sakuragaoka.gr.jp

 

2018年9月 5日 (水)

まとめサイト上の誹謗中傷の投稿への対処について

インターネットに関する相談の中で、近年良く受けているのがいわゆるまとめサイトに誹謗中傷の投稿が掲載されているというものです。

まとめサイトとは、匿名掲示板等やSNSの投稿をまとめて記事にして掲載しているサイトのことをいいます。したがって、例えば誹謗中傷の投稿が匿名掲示板に書かれていった場合にまとめサイトでもその誹謗中傷の投稿が掲載されることになります。

検索エンジンなどで人名を検索した場合、元となった匿名掲示板やSNSの投稿よりもまとめサイトの投稿の方が上位に来ることも良くあります。匿名掲示板やSNSについては読む人も利用者に限られますが、まとめサイトは匿名掲示板やSNSの利用者以外にも読者があるからです。まして有名なまとめサイトに投稿が掲載された場合には読者が爆発的に増えることにもなります。

匿名掲示板やSNSの場合、誹謗中傷の投稿削除要望に対応する窓口が作られており、(曲がりなりにも)削除対応されるためそれで投稿が削除されることもあります。ただまとめサイトの場合、そもそも運営主体がどこなのかサイト上で明記されていないものがほとんどですし、連絡先とされているメールアドレスへ連絡しても無視されることも良くあります。そのため掲載元の匿名掲示板やSNSよりも投稿削除が難しいということになりがちです。

ただ、このような運営主体が不明なまとめサイトであっても、どこかのサーバーを利用します。そこでサーバーを管理する会社を特定した上、そのサーバー管理会社を相手にしてプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)により投稿削除を請求することができます。弁護士が投稿削除の依頼を受けた場合も、サーバー管理会社に対して削除請求を行って投稿を速やかに削除させるのが通例です。

まとめサイト上の投稿削除だけではなく、まとめサイトにより誹謗中傷の投稿が広められたことについての損害賠償責任をとってもらいたいという思いもあるでしょう。この点近時まとめサイトの行ったまとめ投稿に対し、不法行為に基づく損害賠償が認められた裁判例(大阪地裁平成29年11月16日判決 判例時報2372号59頁)の事案が参考になるかと思いますのでご紹介いたします。

この事案では、匿名掲示板の投稿をまとめサイトに掲載したことにより原告の権利を新たに侵害したかどうかが争点となりました。この点被告(まとめサイトの運営)側は、仮にまとめサイト上に問題がある投稿の掲載があったとしても、原告の権利はあくまで掲載元の匿名掲示板の投稿により侵害されたにすぎず、まとめサイト上の掲載が新たに原告の権利を侵害したとはいえないと主張しています。

ただ裁判所は、サイト上の掲載では表題の作成や表記文字の強調等が行われていることや、まとめサイト上に多数のコメントが掲載されており多くの読者がいること等からすると、まとめサイト上の投稿は引用元の匿名掲示板の投稿とは異なる新たな意味合いを有するものであるとして、被告の主張を排斥し、まとめサイト上の掲載が新たに原告の権利を侵害したと認めました。なお、地裁での判決の後本年6月に大阪高裁で本件の控訴審判決が出されていますが、地裁の判断を維持しています。

上記裁判例の考え方に従えば、まとめサイト上の投稿に対してまとめサイトの運営者に対しても損害賠償請求を行うこともありえることになります。

まとめサイト上の誹謗中傷の投稿については運営者がどこの誰だか分からないこともあって泣き寝入りする人も多いですが、弁護士に依頼すれば投稿削除や被害回復へ繋げていくこともできますので、まず弁護士に相談されることをお勧めいたします。

                                    (弁護士 大窪 和久)

2018年9月 2日 (日)

9月,10月の神山ゼミのお知らせ

神山ゼミを以下の要領で行います。

【9月】
日時:9月14日(金)午後6時から午後8時頃まで
場所:伊藤塾東京校302教室
http://www.itojuku.co.jp/keitai/tokyo/access/index.html
終了後,懇親会を行います。
【10月】
日時:10月12日(金)午後6時から午後8時頃まで
場所:伊藤塾東京校202教室
http://www.itojuku.co.jp/keitai/tokyo/access/index.html
終了後,懇親会を行います。
【備考】
法曹,修習生,学生に開かれた刑事弁護実務に関するゼミです。 刑事弁護を専門にする神山啓史弁護士を中心に,現在進行形の事件の報告と議論を通して刑事弁護技術やスピリッツを磨いていきます。
特に,実務家の方からの,現在受任している事件の持込相談を歓迎いたします。
方針の相談や,冒頭陳述・弁論案の批評等,弁護活動にお役立ていただければと思います。
なお,進行予定を立てる都合上,受任事件の持込相談がある場合には,参加連絡の際にその旨お伝えください。
参加を希望される方は予めメールにて,下記の事項を澤田若菜(sawada@sakuragaoka.gr.jp)までご連絡下さるようお願いします。
※スパム対策として,@を全角にしています。半角の@に変換して送信してください。
[件名]9月の神山ゼミ(10月の神山ゼミ)
[内容]
・氏名:
・メールアドレス:
・懇親会への出欠:
・持込相談の事件がある場合にはその旨
皆様のご参加をお待ちしています。

2018年8月 9日 (木)

定年後再雇用で不当な労働条件(賃金・給与)を提示された方へ

1.年金の受給開始年齢(65歳 国民年金法26条、厚生年金保険法42条1号)に達するまでの高齢者福祉を代替させるため、法は事業主に対して高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するための措置を講じることを義務付けています(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項)。

  具体的には、① 定年の引き上げ、② 継続雇用制度の導入、③ 定年の廃止 のいずれかの措置をとらなければなりません。

  厚生労働省が発表している「平成29年『高年齢者の雇用状況』集計結果」によると、高年齢者雇用確保措置は従業員31人以上規模の99.7%で導入されています。また、雇用確保措置の内訳は、① 定年の引き上げ が17.1%、② 継続雇用制度 が80.3%、③ 定年制の廃止 が2.6% となっています。

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11703000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-Koureishakoyoutaisakuka/0000182225.pdf

資料を参照すれば分かるとおり、多くの企業は、雇用安定措置として、継続雇用制度(いわゆる定年後再雇用の制度)を採用しています。

2.継続雇用制度で雇い入れられるにあたっては、現役時の給与よりもかなり低い給与水準が示されることが珍しくありません。

  この点に関係して、近時、大幅な賃金引下げを伴う定年後再雇用の提案をすることの適否が問題になった判例が公刊物に掲載されました。福岡高裁平29.9.7労経速2347-3九州惣菜事件です。

  この事案では、定年前に33万5500円の月額賃金(時給換算1944円)をもらっていた労働者に対し、時給900円・月収ベースで月額賃金8万6400円になるような給与水準を示すことの適否が争われました。

  裁判所は、

 「再雇用について、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有する」

 「その判断基準を検討するに、継続雇用制度(高年法9条1項2号)は、高年齢者の65歳までの『安定した』雇用を確保するための措置の一つであり、『当該定年の引上げ』(同1号)及び『当該定年の定めの廃止』(同3号)と単純に並置されており、導入にあたっての条件の相違や優先順位は存しないところ、後二者は、65歳未満における定年の問題そのものを解消する措置であり、当然に労働条件の変更を予定ないし含意するものではないこと(すなわち、当該定年の前後における労働条件に継続性・連続性があることが前提ないし原則となっており、仮に、当該定年の前後で、労働者の承諾なく労働条件を変更するためには、別の観点からの合理的な理由が必要となること)からすれば、継続雇用制度についても、これらに準じる程度に、当該定年の前後における労働条件の継続性・連続性が一定程度、確保されることが前提ないし原則となると解するのが相当」である

 「したがって、例外的に、定年退職前のものとの継続性・連続性に欠ける(あるいはそれが乏しい)労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには、同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要であると解する。」

 との規範を示したうえ、

「本件提案の労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない。したがって、本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには、そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要である。」

「月収ベースの賃金の約75パーセント減少につながるような短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない。」

と会社側による極端な給与水準の引き下げに違法性を認めました。

 結局、この事案で、裁判所は、会社側に対し、原告への100万円の慰謝料の支払を命じました。

3.定年後再雇用に伴って、給与水準が下がったからといって、直ちに違法性が認められるわけではありません。

  しかし、企業経営的な論理で給与水準を下げざるを得ないとしても、それには一定の限界があります。上述の裁判例は、その限界を画する一例としての意味があります。

  会社側が月収ベースの賃金の75パーセントを減少させた背景には、雇用保険法における高年齢雇用継続給付の仕組み(雇用保険法61条以下参照)と平仄を合わせたことが推察されます。高年齢雇用継続給付とは、60歳以後の賃金が60歳時点の75パーセント未満になった場合に給付金が支給される制度です。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000172176.pdf

  ここから逆算して、60歳時点との比較において25パーセントの給与水準を保障していれば合理性は否定されないはずだという思惑があったのではないかと推察されます。

  しかし、上記の裁判例は75パーセントも給与水準を減少させるのは、行き過ぎだと判断しました。もちろん、上記裁判例は減少幅を構成するパーセンテージだけで結論を出しているわけではありませんが、それでも同様の発想に基づいて定年後再雇用者の給与水準を設定している企業に対して、法的な責任を追及する足掛かりとなる判例には違いありません。

4.定年後再雇用に伴って極端に低い賃金水準を提示されて経済的なお悩みをお抱えの方・理不尽さを感じている方は、ぜひ一度相談にいらしてください。

また、その際には、似たようなお悩みをお抱えの方に声を掛けることをお勧めします。この種の制度論を争う訴訟は、原告の数に応じて争点が拡散していく類の事件ではないため、集団訴訟として事件化できれば、原告の方一人あたりの弁護士費用の負担を大幅に薄められる可能性があるからです。

(弁護士 師子角 允彬)

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