2018年6月19日 (火)

71期司法修習生の採用を受け付けています

募集人数 71期 1名
採用条件
 入所後1年~2年のトレーニングの後,事務所の指定に従い法テラスのスタッフ弁護士又はひまわり基金公設事務所の弁護士として地方に赴任できる人。
 権威にこびない人。
選考方法
1 書面審査
 履歴書,志望理由書及び司法試験の成績票(写し可)をまずはお送り下さい。
(定型のエントリーシートはありません。)
 なお,応募書類は原則としてお返ししませんが,返還を希望される場合には応じますので,返信用封筒を併せてお送り下さい。
2 面接(書面審査通過者のみ)
 日時については、修習地、時期などを勘案しながら、個別に調整させて頂きます。 
 
3 結果通知
 面接後、メールにて結果を通知しますので,履歴書にメールアドレスをご記載ください。
 
 なお,当事務所への応募にあたっては,事務所の雰囲気を事前に知っていただいたうえで応募していただくという意味でも,神山ゼミや説明会に参加したことがあるのが望ましいですが,必須の条件ではありません。
 神山ゼミについては,本ブログに開催告知をアップしておりますので,ご参照ください。

2018年6月17日 (日)

転勤(配転命令・出向)と家庭生活

1.2019年卒業学生向け就職情報サイトを運営する民間企業が就職活動に関するWEBアンケートをとったところ、志望する条件として「休日・休暇がしっかり取れる」「転勤のない企業」などの比率が高まっているとのことです

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000268.000013485.html)。

2.転勤が家庭生活に与える影響は、近時、メディアに良く取り上げられるようになっています。

  共働き妻が会社を辞めざるを得ない深刻事情

http://news.livedoor.com/article/detail/14811437/

「親の介護で転勤できない」男性社員の申し出増加

https://style.nikkei.com/article/DGXKZO24427650Y7A201C1NZBP00/

  終身雇用の前提が崩れつつある中、勤務先の辞令一つで家庭生活を犠牲にすることへの疑問の高まりが、学生の希望にも反映してきているのではないかと思われます。

3.転勤をめぐる問題が社会的に耳目を集めるようになってきたためか、近時公刊された判例集に、配転命令の効力が問題になった事案が複数掲載されていました。

  大阪地判平30.3.7労判1177-5は、妻の病気を理由に異動を拒否した職員に対する解雇を無効と判断しました。

  この裁判例は、傍論での判断ではありますが、

 ① 「原告の妻の病状は、相当に深刻なものであったと言わざるを得ず、既に日常生活においても多大な支障が具体的に生じていたと認められる」こと、

 ② 「原告の妻は、本件人事異動を聞いて現にパニック状態となり、自殺未遂を起こすまでの状況に立ち至っており、原告が本件人事異動命令に従えば環境変化により重大な事態を引き起こす可能性も十分に想定し得たこと」

 ③ 「原告の妻の主治医も『治療環境としては居住地ならびに夫の職務や勤務地は現在の状況を維持するのが必須であると判断する。』旨の診断書を作成していること」

 ④ 「原告が本件人事異動を拒否する動機は、妻の病状以外には見当たらず、…不当な動機で本件人事異動を拒否しているとは認められないこと」

 ⑤ 「本件人事異動は…ジョブローテーションの一環として定期的に行われるものであって、原告を…異動させることそのものに高度な必要性があったとまでは言い難いこと」

 などを総合的に勘案すると、人事異動は出向に関する権限を濫用したものと認めるのが相当だと判示しています。

4.また、京都地判平30.2.28労判1177-29は、職種変更及び勤務地異動を伴う配転命令について、

 「使用者である被告としては、労働者である原告Dらに対する本件配転命令にあたり、原告Dらの個々の具体的な状況に十分に配慮し、事前にその希望するところを聴取等したうえで…本件配転目例の業務上の必要性や目的を丁寧に説明し、その理解を得るように努めるべきであった」

 「原告Dらに対する本件配転命令は、原告Dらの個々の具体的な状況への配慮やその理解を得るための丁寧な説明もなくなされたものであり、…その業務上の必要性の大きさを考慮しても、これを受ける原告Dらに予期せぬ大きな負担を負わせるものであることやこれに応じて執るべき手続を欠いていたことという点において、その相当性を著しく欠くものといわざるを得ない。」

 として原告Dらに対する配転命令を違法だと判示しました。

  原告D(女性)は独身ではありましたが、脳梗塞の後遺症によって目が不自由な父ら家族の介護に関わる事情を持っていました。

5.配偶者の病気が深刻なものであり、かつ、そのことが医師による医学的判断に裏付けられている場合、ジョブローテーション程度の必要性しかない配転や出向の命令は拒むことができる可能性があります。

  また、業務上の必要性があったとしても、個々の労働者の置かれた具体的な状況への配慮や説明が不十分なまま行われたなど、適切な過程・手続がとられていない配転命令に対しても、その効力を問題にできる可能性があります。

6.育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律26条は、「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。」と定めています。あまりに家庭生活に犠牲を強いる転勤には、法も消極的な考えを示しています。

  人生設計や家庭生活を考える上で許容できない転勤を命じられた方は、一度法律相談を受けてみても良いかも知れません。

  もちろん、当事務所でも、ご相談はお受付しています。

(弁護士 師子角 允彬)

 

2018年6月14日 (木)

スタッフ弁護士になる10の理由(その1)

 最近、法テラスの常勤弁護士(スタッフ弁護士)への志望者が減っているといいます。私はスタッフ弁護士として6年間働いた経験から、ロースクール生や修習生に自信を持って法テラスを就職先としてお勧めします。題して「スタッフ弁護士になる10の理由!」(書きながら自分がスタッフ弁護士に戻りたくてなってきたことはさておき・・・)。

 なお、この4月から私は法テラスの広報・調査室長として働いていますが、以下は法テラスの組織としての見解ではなく、かつまた今の自分の所属先を喧伝するために書くわけでもありません(法テラスを宣伝することが私の今の仕事ではあるのですが、それを措いてもという意味で)。純粋に、元スタッフ弁護士としての私個人の意見です。桜丘で2年間修業した後、2006年に法テラス佐渡を立ち上げて3年半を佐渡で過ごし、その後に那覇へ異動して2年半、合計6年間をスタッフ弁護士として過ごしました。

 那覇の後は、法テラスを辞めてアメリカに留学たり、JICAの長期専門家としてネパールに赴任したりしておりましたが、こちらの話はまた別の機会に。とりあえず、「スタッフ弁護士になる10の理由(その1)」いきます!

 

1 事件に集中できる。

 法テラスの司法過疎対策事務所と、日弁連のひまわり公設事務所の役割は基本的には同じです。私は佐渡にいましたが、佐渡島内の事件をどんな事件でも受けて、地域の司法アクセスを確立することです。異なるのは、法律事務所の「経営」をするかどうか。ひまわり公設に限らず、法律事務所のパートナーになると、事務所の収支はもちろんのこと、雇用主として職員の待遇も考えなければなりません。

 法テラスでは、組織として職員を採用しているため、人事評価に参考意見をつけることを除けば、スタッフ弁護士個人が労使交渉の使用者側になることはありません。事務職員と名実ともに「同士」として、事件に取り組める環境があると言えます。独立し、あるいはひまわりの公設の同期が経営について悩んでいる時に事件処理だけに没頭していた私は、ある意味幸せものでした。

 スタッフ弁護士として働く間、地元の弁護士会の委員会や研修に参加することで、先輩から多くのことを学ぶことができました。ただ、法曹界でよく「事件が人を育てる」と言われるように、依頼者の人生がかかった一つ一つの事件にこそ、最も大きな学びがあります。経営のリスクを負わない以上、事件を数多くこなすことによる経済的な受益こそありませんが、弁護士として事件に集中できる環境はプライスレスです。

 

2 単価の低い事件にも取り組める。

 スタッフ弁護士には一般の弁護士が受け控えてしまうような、時間当たりの単価が低い事件に積極的に取り組むことが期待されています。

 私が経験した「単価の低すぎる事件」の一つには、離婚調停に一年以上かかったものがありました。様々な事情で5年間別居していた高齢者夫婦が、離婚調停の中で、病気や介護、住宅、年金の問題を一つずつ解決し、同居を再開したという事案でした。事件が終了してから暫くしてから、体の不自由な夫の体を妻が支えて事務所を訪ねて下さり、「二人で釣りに行ったんだ!」と魚をくれた時は本当に嬉しかったのを覚えています。

 しかし、常勤弁護士ではなく契約弁護士として事件を受任したいたら、民事法律扶助家事調停の報酬は数万円です。ご本人達が本音で語れるようになるまでの数か月をじっくり付き合えたか。市役所への介護保険の申請に付き合ったり、調停外での夫婦の面談に付き合ったりできたかは疑問です(手弁当を覚悟してやると思うけどね!というのは、今の契約弁護士としての自分に対する宣言)。スタッフ弁護士だったからこそ、とことん付き合って、最後にご夫婦の仲良く並ぶ笑顔を見ることができたのだと思います。

 

3 困難な事件に集中できる。

 さて、ここまで「事件に集中できる」とか言っていませんが、もう一回だけ言います。たまに、「そんなお金にならない事件ばかりやって、弁護士としての力がつくのか?」と言われます。でも、「単価が低い=簡単」ではありません。その多くは、困難さ故に時間がかかり、結果として単価が低くなるものです。

 本来的には困難な事件であれば、その単価があがることが理想なのでしょうが、法テラスの利用者は経済的に困窮しており、民事法律扶助では最終的に利用者本人が弁護士報酬を償還しなければなりません。一方で、国選刑事弁護事件は、報酬計算に係る法テラスの裁量の余地がないようにという弁護士会からの要請から、統一的な基準が作られているため、「例外的な」困難さに対応することができないのが現実です。

 櫻井弁護士から新人の頃に聞かされていたことの一つに、「困難な事件を避けるのはもったいない。困難な事件に真剣に取り組んでこそ力が伸びるし、依頼者からの信頼を勝ち得ることができる。」というものがあります。沖縄では2年半の間に裁判員裁判8件を受けることができました。スタッフ弁護士としての6年間、民事でも刑事でも様々な意味で困難な事件に取り組めたことが、弁護士としての自分の基礎体力を作ったと感じます。

 事件に集中できる環境があり、単価の低く(社会の隅っこで複合的な苦しんでいる人が最も必要とする)、特に困難な事件に取り組むことが期待されている。振り返ってみると、私にとってはとても幸福な時間でした。

 

4 ノーリスクで事務所経営の練習ができる。

 事件に集中できる環境があるとはいえ、事務所の収支が分からない訳ではありません。事件処理にかかる経費はもちろんですが、人件費を含む事務所の固定経費も知ろうとさえすれば、把握することができます。契約弁護士として受任していたら支払われていただろう国選・民事法律扶助事件の報酬は事件毎に分かります。司法過疎事務所であれば、「有償事件」と呼ばれる一般的な弁護士報酬で受任する事件もあります。

 国選・扶助事件だけで収支を合わせることは難しいでしょうが、日々の事務所運営かかる経費を知り、自分がどの程度のボリュームの事件を受けることができるかを知ることは、将来の独立開業する際の貴重なトレーニングになります。一度開業して日々の運転資金を自分で回す前に、「自分の財布から経費を支出する」という痛みなく事務所運営の練習ができるというのはスタッフ弁護士の魅力の一つだと思います。

 少々脱線しますが、「スタッフ弁護士は事件処理経費を『全く』気にしなくていいことが魅力だ!」という人がいます。私は、それは事実ではなく、仮に事実だったとしても「魅力」には当たらないと考えます。確かに、経営者として自分の財布から人件費や固定経費を支出しなければならない開業弁護士に比べれば、経費のことが頭に浮かぶ機会は遥かに少なくて済みます。

 しかし、スタッフ弁護士が受けている事件だからといって、一般弁護士が受任したら出せない経費が支出できる訳ではありませんし、スタッフ弁護士の人件費を含む法テラスの運営費が公費で賄われている以上、コスト意識を持つことは必要です。これは事件の費用対効果を考えるべきと言っている訳ではありません。一回の訪問で済むことが自分の準備不足のために二回目の訪問が必要になってしまうことを避けたり、職員の事務処理がスムーズに進むような工夫をして残業を減らしたりすることで、効率的な事務所運営を行なうことが求められると考えています。ただ、法律事務の独立性があるため、このような細かいことを組織側から言われることは、少なくとも私がスタッフ弁護士をしていた頃はありませんでした。自ら律することで、自分や職員の負担を減らしてワークライフバランスを高めることにも繋がると思います。

 社会人経験のないまま弁護士になった私には、経営者としてのリスクを負う前に事務所運営の練習ができたこと、職員との人間関係学んだことは、とても貴重な経験となりました。

 

2018年6月 3日 (日)

教師の残業代(私立学校の部活動顧問の労働時間性)

1.公立学校の小中高の教育職員には時間外勤務手当が支給されません(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項)。

  そのため、給与に反映されないにも関わらず部活動顧問に多くの時間を割かざるを得ない学校の先生の過酷な労働環境が話題を集めるようになっています。

2.現行の法律上、教育職員に対しては、時間外勤務手当の代わりに、給与月額の4%に相当する教職調整額が支給されています(同法3条1項)。

  また、部活動に対しては、条例によって手当を支給されることも可能とされています。例えば、東京都では学校職員の特殊勤務手当に関する条例で「学校の管理下において行われる部活動の指導業務に従事した場合で、当該業務が心身に著しい負担を与える程度のもの」には教員特殊業務手当という名目で手当を支給することとされています(同条例15条1項参照)。

  しかし、教育職員の方が部活動顧問に費やす時間を考えると、不十分なのが実情ではないかと思われます。

3.部活動顧問の活動に十分な手当がされていなかった背景には、その法的な位置付けが曖昧なことが挙げられるのではないかと思います。

  中学校学習指導要領は部活動について、「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること」と言及しています。

高等学校学習指導要領も部活動については、「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化及び科学等 に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等に資するものであり,学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること」と中学校学習指導要領と同じような言及をしています。

  学習指導要領上、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」ものにすぎないのか、「学校教育の一環として」行われるものなのかが明確に読み取れません。

  学校教育活動の一環であるならば部活動顧問は教育職員の業務といえるのでしょうが、単なる生徒の自主的な活動を支えているにすぎないものであれば業務と認めない考えも出てくる余地があるように思われます。

  上述の東京都の学校職員の特殊勤務手当に関する条例も、部活動の指導業務に従事したとしても、心身に著しい負荷を与えるようなものでなければ、手当の対象外であるかのように読めます。

  冒頭の公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項との関係で、公立学校の教育職員の方から時間外勤務手当の請求に係る訴訟が起こされないこともあり、裁判所が部活動顧問に従事した時間の労働時間性についてどのように考えているのかもあまり良く分かりません。

4.そうした状況の中、近時興味深い裁判例が公刊物に掲載されました。

  さいたま地判平29.4.6 東京高判平29.10.18労判1176-18です。

  この事例では私立学校におけるバレーボール部の顧問としての活動の労働時間性が争点の一つになりました。

  被告学校法人は、

「部活動の朝練は、何ら強制されるものでなく、原告は何時に来るかを自ら自由に決定できたことに照らすと、それが労働時間にあたるとは認めがたい。」

などと顧問としての活動の労働時間性を争いました。

  しかし、さいたま地裁は、

 「バレーボール部の活動として、本件学校に朝練習の届け出をしている日や、…原告作成の本件日記中に、バレーボールの朝練習をした日については…原告の早出残業を認める。」

 「週番日誌にバレーボール部の活動が記録されている場合には、当該部員の下校時刻を原則として終業時刻とする」

 と部活動の労働時間性を認めました。

  この判断は控訴審である東京高裁でも維持され、確定しています。

  地裁・高裁の判例は公刊物では教諭に対する経歴詐称、勤務態度不良等を理由とする解雇の有効性等に関する事案として紹介されています。しかし、部活動顧問としての活動に労働時間性を認めた事案としても注目されて良いように思われます。

5.公立の学校の場合、法制度上の問題として、いくら部活動の顧問業務に多くの時間が割かれたとしても、時間外勤務手当を請求することは現状ではかなり困難です。

  しかし、私立学校の場合に関して言えば、部活動の顧問業務に従事した時間を労働時間として計算したうえで、時間外勤務手当を請求する余地があるように思われます。

  部活動の顧問業務に忙殺されているのに時間外勤務手当が支払われないとお悩みの私立学校の教育職員の方がおられましたら、ぜひ一度相談にいらして下さい。私立学校の場合、公立学校とは異なり立法の壁があるわけではないため、何等かの形で救済を図れる可能性があります。

(弁護士 師子角 允彬)

2018年5月24日 (木)

インターネット上のなりすまし行為を行う代償はとても大きい

 最近、インターネット上でのなりすまし行為についての相談を多く受け付けております。

  インターネット上でのなりすまし行為とは、本人の実名や本人がインターネット上で使っているハンドルネームをつかったり、本人の写っている画像を使ったりしてあたかも本人がそのアカウントを使っているような形でインターネットの掲示板やSNSで投稿を行うことを指します。

 インターネット上でのなりすまし行為が続いて本人であれば絶対に投稿しないような内容が投稿されネット上に拡散された結果、本人の名誉が毀損され続けるということも珍しくありません。またインターネット上のなりすまし行為による被害は有名人ばかりではなく、一般の方でも多いのが実情です。本人の知り合いが嫌がらせでインターネット上のなりすまし行為を行うということも少なくありません。

 インターネット上のなりすまし行為は、どうせ自分がやっていることがばれることはないだろうという安易な気持ちで行っている人が多いようです。確かになりすまして投稿する際には、どこかに自分の実名や住所を入力するわけではありませんので、自分がやっていることが特定されるわけはないだろうと考えるのでしょう。

 しかしながら実際には裁判上の手続を使いインターネット上でのなりすまし行為をした者を特定することは可能です。特定するためにはまず投稿がなされたサイトやSNSを運営する会社に対して仮処分を申立て、投稿者の発信者情報(ログイン時のIPアドレス)の開示を求めます。開示された投稿者の発信者情報からは投稿者が利用しているプロバイダが特定できます。そのプロバイダの運営会社に対して発信者情報開示請求訴訟を提起して判決を得れば投稿者の情報(氏名、住所、メールアドレスなど)が判明し、投稿者の特定に至ります。

 インターネット上でのなりすまし行為により本人の名誉が毀損されている場合には、加害者に対しては損害賠償請求を行うことが可能です。それでは具体的にどの程度の損害賠償が得られるのでしょうか。損害賠償の金額は事案の内容によりますが、近時判例タイムズで紹介された裁判例(大阪地裁平成29年8月30日判決 判例タイムズ1445号202頁)の事案が参考になるかと思いますのでご紹介いたします。

 この事案では、加害者はSNSで被害者のなりすましアカウント(被害者がSNSで使っていたアカウント名と同じ名前を使い、かつ被害者の顔写真を使用したもの)をSNSで作りました。このなりすましアカウントは約一か月程度SNS上にそのままの状態で存在していました。そして加害者はこのなりすましアカウントを使って、他者に対し「ザコなんですか」「お前の性格の醜さは、みなが知った事だろう」などといった誹謗中傷を繰り返したり、被害者の顔について醜い顔である旨の侮辱行為を行っていました。そこで被害者は加害者を特定した上で、損害賠償請求訴訟を裁判所に提起したのです。

 裁判所はこの加害者のなりすまし行為によって、被害者の名誉権及び肖像権が侵害されたとして、加害者に対し慰謝料60万円の支払を命じました。

 しかし裁判所が認めた損害はこの慰謝料だけではありません。被害者は加害者を特定するために、SNSの運営会社に対する仮処分およびプロバイダに対する発信者情報開示訴訟を行いましたが、その為に58万6000円の弁護士費用を負担しました。この弁護士費用についても損害として加害者に対して支払を命じているのです。

 さらに裁判所はこの損害賠償請求訴訟自体の弁護士費用(12万円)も損害として加害者に対して支払を命じておりますので、合計130万6000円の損害賠償責任を加害者は負うこととなったのです。
 
 安直な気持ちで行ったなりすまし行為であっても、その結果上記のように大きな代償を払うことになることは良く知っておくべきだと思います。
 
 また一方で、なりすまし行為がどこの誰によって行われたか分からないと言って泣き寝入りする人も多いですが、法的手続をしっかりとっていけば上記のような形で判決を得た上で被害回復へ繋げることもできますので、被害にあったら弁護士に相談されることをお勧めいたします。 
                                                           (弁護士 大窪 和久)

2018年5月22日 (火)

取引先・顧客からのセクハラ

1.財務省の前財務次官の一件以降、連日のようにセクハラに関する報道がされています。

  その中で気になるデータがありました。

  メディア業界内でのセクハラ被害についてアンケートをとったところ、セクハラの相手で最も多かったのは、取材先・取引先だったとのことでした。アンケート回答者107人のうちセクハラの相手として取材先・取引先を挙げた方が74人もいたとのことなので、かなり深刻な状況だと思います

https://mainichi.jp/articles/20180518/k00/00m/040/076000c)。

2.セクハラへの対策を規定しているのは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」といいます)です。

  均等法11条1項は「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と事業主にセクハラを防止するための措置を講じることを義務付けています。

  この雇用管理上必要な措置に関して、厚生労働省は指針を作成しています(平成18年厚生労働省告示第615号

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000133451.pdf)。

  指針では「取引先の事務所、取引先と打ち合わせをするための飲食店、顧客の自宅等であっても、当該労働者が業務を遂行する場所であれば」職場に該当するとしています。

  また、厚生労働省が作成しているパンフレットには「性的な言動」に関して「取引先、顧客…などもセクシャルハラスメントの行為者になり得る」と明記されています

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/00.pdf)。

 指針上、職場におけるセクハラに係る相談の申出があった場合、事業主は事実関係を迅速かつ正確に確認しなければならないとされています。セクハラが生じた事実が確認できた場合には、被害者に対する配慮のための措置を実施し、同時に行為者に対する措置を適正に行わなければなりません。また、再発の防止に向けた措置を講じることともされています。

 現行法の範囲内でも、取引先からのセクハラを受けた被害者を救済する枠組自体は用意されています。

 しかし、冒頭の毎日新聞の記事のアンケート結果を見る限り、社会に対して法の趣旨が浸透しているとは言い難そうです。

3.取引先からのセクハラが顕在化しにくい背景には、労働者自身に面倒だと思われたくないという意識があるほか、相談を受けた事業主としても強い立場に出にくいという事情があるのではないかと思われます。

  ただ、後者の問題に関しては、近時、事業主に警鐘を鳴らす判決が出されています。千葉地松戸支判平28.11.29労判1174-79です。

  この事案では、男性の大学の非常勤講師が男子学生から臀部を触られるなどのセクハラ行為を受けたことに関し、セクハラ行為がなかったと結論付けた大学が非常勤講師からの情報提供及び要望に対して労働契約上適切な対応をとっていたと認められるのかが争点となりました。

  裁判所は、ハラスメント行為はなかったとする大学を、

 「被告乙山(学生)の履修を継続させるべく、当初から『何もなかった』かのように事態を収束させたいという考えを有していた」

「被告乙山のハラスメント行為を否定することで早期決着を図った」

と批判したうえ、

「被告乙山によるハラスメント行為はなかったという結論を下したことについては、不十分な調査によって被用者である原告に不利な結論を下したというほかなく、被告学園(大学)の措置は労働契約上の義務に違反する」

と判示しました。

 そして、

「被告学園は被告乙山の履修継続及び事態の早期決着を目指すことを優先して、原告側の言い分を尊重しない行動に出たものと言う外なく、…非常勤講師である原告を精神的に相当傷つけた」

として80万円の慰謝料の発生を認めました。

 非常勤講師は学生を授業に出席させないようにしてほしいと求めていました。しかし、大学から「被告乙山は授業料を支払っていることから、授業に出席させない措置をとることはできない」と伝えられたことを受け、代理人弁護士に法的手続を委任したようです。

 大学にとって学生は顧客に近い立場にあります。学校経営上、あまり厳しい指導・処分はしにくかったのかも知れません。しかし、早期決着を図るため被害者を黙らせようとしたことで慰謝料の支払を命じられました。

4.取引先・顧客からのセクハラに対しても法は決して冷淡ではありません。声を上げたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 また、労働者からセクハラに関する相談を受けた事業者は、言い分が食い違う場合にも適切な事実認定をしなければならないなど、今後、難しい判断を迫られる局面が増えてくることが想定されます。対応に迷われた際には、ご相談を頂ければ、お力になれることは多いかと思います。

  法の趣旨に沿った紛争解決に役立つことができれば、大変嬉しく思います。

(弁護士 師子角 允彬)

2018年5月13日 (日)

“逆パワハラ”は法律も守ってくれない?

1.「部下が上司イジメ…“逆パワハラ”は法律も守ってくれない?」という記事が掲載されています

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/227918/1)。

  記事は、

「“逆パワハラ”によって出勤停止になった部下が上司と会社を提訴し、勝訴した。」

事例を引き合いに出し、

「法律も無力だったりする。」

と指摘しています。

 また、該当の事例に対する弁護士のコメントとして、

「『その部下は、上司の指導や指摘に対して『勝手にしろよ』などとタメ口で、上司を批判し、取り合わなかった。そういう言動があまりにも続いたため、会社側が出勤停止にしたのです。ただ、パワハラの定義は職場内での優位性を利用し、職場環境を悪化させたり、精神的・身体的苦痛を与えること。この部下は人間関係や経験の面でも上司の優位に立っていなかったため、パワハラには該当しないと判断されました。相手が“下”の立場である以上、上司が被害を受けても、法的に守ってもらえないケースもあるのです』」

 という発言を引用しています。

  しかし、部下から上司への不適切な振舞いに対し、法律は必ずしも無力ではないと思います。

2.記事が挙げているような事例での部下の勝ち方には、二つの類型があります。

  一つ目は、「勝手にしろよ」などの暴言が「あまりにも続いた」という事実自体が証拠によって認定できなかったという類型です。懲戒処分の原因になった事実自体が証拠によって認められない場合、会社が敗訴するのは当たり前です。

これはきちんとした証拠もなく懲戒処分を下した会社の不手際であって、法律が無力であることとは違うと思います。

  二つ目は、「勝手にしろよ」などの暴言が「あまりに続いた」事実自体は認定できるものの、当該事実に対する処分として出勤停止が重すぎるという類型です。

  この場合、裁判所が判断しているのは、飽くまでも出勤停止が不相当に重いということだけです。戒告、減給などのより軽い処分であれば、部下が敗訴していた可能性は十分にあると思います。法律は、部下の言動に問題がないとお墨付きを与えているわけではありませんし、部下の不適切な言動に無力であるわけでもありません。

私企業がどのような懲戒処分の基準を持っているのかは外部からは分かりませんが、公務員の場合、他の職員に対する暴言により職場の秩序を乱した職員に対する懲戒処分の標準例は「減給又は戒告」とされています(平成12年3月31日職職-68「懲戒処分の指針について」第2-1(5)参照)。既に何度も同じような言動で戒告などの懲戒処分を受けているというのであればともかく、暴言でいきなり出勤停止という重い処分をとったとすれば、それは元々負けても不思議でない事案だったという見方もできると思います。

3.処分との均衡が害されていない限り、暴言を吐いた部下を就業規則に基づいて懲戒に処することは当然可能です。部下の側が優位というわけではないのであれば、懲戒処分を下すなり、部下を配置転換させるなりすればよいと思います。こうした対応は現行の法律の枠内でもとることが可能です。

  また、行政解釈上、職場のパワーハラスメントは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。定義上、パワハラが「職務上の地位や人間関係といった『職場内での優位性』を背景にする行為」であれば上司から部下に対するものに限られないことは厚生労働省のホームページ上でも明確にされています

http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126546.html)。

  部下が何等かの優位性を背景に上司に対してパワハラをしていたとすれば、当然、不法行為として損害賠償請求をすることが可能です。また、近時では使用者に「パワハラの訴えがあったときには、その事実関係を調査し、調査の結果に基づき、加害者に対する指導、配置換え等を含む人事管理上の適切な措置を講じるべき義務」があるとする裁判例も出されています(東京高裁平29.10.26労判1172-26参照)。このような裁判例を根拠に、会社に対して問題の部下に人事管理上の適切な措置を講じるよう求めることも可能だと思います。

4.より適したルールを模索するため、法の不備を指摘することは必要です。

  ただ、「法律は守ってくれない」といった類の論稿を掲載することには慎重さも必要だと思います。それを見て、権利の救済を諦め、絶望してしまう人が出てくるかも知れないからです。

  部下から上司に対するものであったとしても、暴言や無視、意地悪から人を守ることに関して、法律は決して冷淡ではないと思います。

  理不尽なことには何等かの対応策があるのが普通なので、諦めたり泣き寝入りしたりする必要はないと思います。

(弁護士 師子角 允彬)

2018年5月 3日 (木)

憲法記念日に思うこと-憲法の理念に欠ける道徳教科

 与党のスキャンダルが続き,少し下火になってきたものの,今だに憲法を改正すべきだという声がくすぶっている。確かに字句的な修正を施す余地が一寸たりともないかというとそういうわけでもなかろうと思う。けれども今のところ,多少の不自由は解釈によって補えていると思うし,これからもしばらくの間,使い続けて行くことができる憲法だと思っている。そもそも多数の国会議員,吏員,そして国民の多くが,今なお現憲法の理念,その水準に追いついていないように感じる。加えて昨今の憲法をないがしろにする風潮の下では,今改正しようとしてもろくなものができないと考えるからだ。

 最近,憲法がないがしろにされていると強く感じたのは,今度教科化される小中学校の「道徳」の内容をだ。

 道徳の内容として掲げられているのは,

1 主として自分自身に関すること

2 主として他人とのかかわりに関すること

3 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること

4 主として集団や社会とのかかわりに関すること

 の4つで,その中で教える具体的な内容が小学校1・2年,3・4年,5・6年と中学校と進むにつれて変わって行くのだが,この中には「人権」という思想が全く含まれていないのだ。

 例えば主として自分自身に関することについて,中学で教える内容は,

(1)基本的な生活習慣・調和のある生活

(2)希望・勇気・強い意志

(3)自主自律・誠実・責任

(4)真理愛・理想の実現

(5)向上心・個性の伸長


 主として他人とのかかわりに関することで教える内容は


(1)礼儀

(2)人間愛・思いやり

(3)信頼友情

(4)異性の理解

(5)寛容・謙虚

(6)尊敬・感謝


 となっている(東京学芸大学ホームページ,表現の仕方は大学により相違がある)。


 しかし,自分自身のことや他人とのかかわりを考えた時に真っ先に考慮しなければならないことは,それぞれが尊厳ある個として人権の享有主体であるということだろう。上記の内容は,それなくしてああしろこうしろと言われているだけのような印象だ。


 強い意志を持った個性ある自分は,自分が個人として尊重されるべき存在だという自覚があって初めて生まれるものだ。強い意志を持てと言われて持つようなものではない。個性ある自分は,何か趣味特技を見つければ生まれるものでもない。他者に対する礼儀や尊敬などは,他者の尊厳に思いをいたしてこそ心からのものになる。


また,主として集団や社会とのかかわりに関することという項目では,法の順守や公徳心等々,中学では
10もの内容が挙げられるが,組織を変えて行くことや不正を正すこと,異を唱えることなどは含まれていない。こんな道徳では,より良い社会を建設する気概ある人材を育てる役には立つまい。

 
 人が人であるがゆえに尊厳ある個人として尊重されるべきだという人権思想は
200年以上前に登場した思想だが,今なおその内容を豊かにし続けている。それは,この思想を受け継いだ者たちが「人が個として尊重されるとはどういうことなのか」という問いを常に発し続けて来たから,そして今も発し続けているからだ。

 
そしてこの人権思想は,現代社会では世界標準の道徳律の一部をなしていると言って良い。グローバル化に対応する教育を言うのであれば,語学教育もさることながら,憲法に象徴される人権思想をきちんと根付かせることが肝要であろう。

 道徳という教科も個の尊厳と基本的人権の尊重という憲法理念を軸に構成されるべきである。

 

 

2018年5月 2日 (水)

5月,6月の神山ゼミ

神山ゼミを以下の要領で行います。

【5月】
日時:5月15日(火)午後6時から午後8時頃まで
場所:伊藤塾東京校202教室
http://www.itojuku.co.jp/keitai/tokyo/access/index.html
【6月】
日時:6月19日(火)午後6時から午後8時頃まで
場所:伊藤塾東京校202教室
http://www.itojuku.co.jp/keitai/tokyo/access/index.html
【備考】
法曹,修習生,学生に開かれた刑事弁護実務に関するゼミです。 刑事弁護を専門にする神山啓史弁護士を中心に,現在進行形の事件の報告と議論を通して刑事弁護技術やスピリッツを磨いていきます。
特に,実務家の方からの,現在受任している事件の持込相談を歓迎いたします。
方針の相談や,冒頭陳述・弁論案の批評等,弁護活動にお役立ていただければと思います。
なお,進行予定を立てる都合上,受任事件の持込相談がある場合には,参加連絡の際にその旨伝えていただけると助かります。
参加を希望される方は予めメールにて,下記の事項を澤田若菜(sawada@sakuragaoka.gr.jp)までご連絡下さるようお願いします。
※スパム対策として,@を全角にしています。半角の@に変換して送信してください。
[件名]5月の神山ゼミ(6月の神山ゼミ)
[内容]
・氏名:
・メールアドレス:
・持込相談の事件がある場合にはその旨
皆様のご参加をお待ちしています。

2018年5月 1日 (火)

弁護士に依頼するともっとモメる?

1.弁護士に相続を相談するデメリットとして、「もっとモメるかも」という指摘をしている方がいます

http://sozock.com/category56/entry172.html)。

 しかし、所掲のサイトでの指摘は、弁護士業務の実体を誤解しているように思われます。

2.所掲のサイトは「弁護士の場合は、モメればモメるほどお金になるという仕事の性質上、まとまる方向に話が進まない可能性があります。」と指摘しています。

  この点が誤解の出発点であるように思われます。

3.相続問題を扱うようないわゆる町弁が事件を受任する場合、着手金-報酬金という報酬形態をとるのが一般です。

  着手金というのは、「事件の結果に関わらず、最低限、これだけの費用が発生しますよ。」という事件処理の対価のことです。

報酬金というのは、「得られた金銭の何%」といったように、成果に対して発生する費用です。依頼が成功しなければ報酬は発生しないのが普通です。

4.弁護士が事件を受任する場合、先ず、依頼人の依頼の趣旨を確認します。

  その後、依頼人の依頼の趣旨を実現するにあたっての着手金、報酬金の見積もりをします。依頼人が了承すれば、契約書を取り交わし、事件処理に入るという手順をとります。

弁護士が依頼人に見積もりを提示するうえでポイントになるのは、着手金-報酬金方式で契約をする場合、弁護士費用が発生するのが、基本的に事件の着手時と終結時の二回に限られるということです。

半年で事件が解決しようが、事件解決までに10年かかろうが着手金-報酬金の額は変わりません。

  しかし、半年で解決できるか事件解決までに10年かかるかは弁護士にとっては非常に重要な意味を持ちます。

  例えば、着手金30万円の事件でも、半年で解決すれば着手金換算で1か月あたり5万円の利益を生みます。しかし、着手金60万円の事件でも解決までに10年かかれば、1か月あたり着手金換算で5000円の利益しかもたらさないことになります。これではとても経営が成り立ちません。

弁護士業務は、モメればモメるほど金になるどころか、モメればモメるほど利益が薄くなって儲からなくなるというのが実体に近いと思います。

5.セカンドオピニオンや、合い見積もりをとることが珍しくなくなっている東京の市場環境では、過大な着手金を提示すれば、顧客は他所に流れてしまいます。

  そのため、見積もりを提示するにあたっては、依頼の趣旨を実現することの可否だけではなく、発生する労力や紛争解決までに要する期間を正確に見通すことが経営上重要な意味を持ってきます。

  報酬を得るために必要な部分で徹底的に争うのは普通のことです。手を抜くと顧客満足度・評判や技量が落ちるため、予想外の労力が発生するとしても、この点で易きに流れる弁護士は少ないと思います。

  しかし、必要のないところでわざとモメさせようという発想を持っている弁護士は、漫画の世界ではともかく、現実には殆どいないと思います。

  引用元のような記事を見れば、弁護士に事件処理を依頼することで、意味のないモメ事を作られてしまうのではないかというご懸念をお持ちの方が出てくるかも知れませんが、そうした理由で依頼をためらう必要はないと思います。

(弁護士 師子角 允彬)

 

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